放送中のNHK朝の連続テレビ小説『ばけばけ』。主人公は『耳なし芳一』や『雪女』など、古くから日本に伝わる怪談を再話して(※聞いたり読んだりした話を、自分の言葉で言い直して語ること)、世に広めた小泉八雲(本名:ラフカディオ・ハーン)の妻、小泉セツがモデルです。
八雲とセツは島根県松江市で出会いました。そのため、市内には2人の足跡を感じられる場所が多数あります。そんな2人の生い立ちや経歴なども交えながら、ゆかりのスポットをご紹介。ぜひ、旅の参考にしてください。
松江市へのアクセス
松江市へ行くには、まず島根県の玄関口である出雲空港を目指しましょう。羽田空港から向かう場合は約85分、伊丹空港(大阪)からは約55分で到着します。
出雲空港から松江市への移動は、出雲空港~JR松江駅間を走る連絡バス(大人1,300円、小人650円/所要時間約35分)を利用するとスムーズです。
小泉八雲とその妻・セツとは?
小泉八雲(本名:ラフカディオ・ハーン)は、1850年ギリシャ生まれ、アイルランド育ちの作家・教育者・ジャーナリスト。19歳のときに単身で渡米し、アメリカで約20年間、新聞記者として活躍しました。
1890(明治23)年、39歳のときに取材で初めて日本を訪れます。その後、新聞社を離れて英語教師となり、島根県尋常中学校に赴任しました。
松江での生活を始めた八雲は、日本語の学習や日常生活の支えを必要としており、知人の紹介で士族の娘・小泉セツと出会います。セツは八雲の身の回りの世話や日本文化の案内役を務めるようになり、やがて2人は親しくなり、のちに結婚しました。
その後は熊本、神戸、東京へと拠点を移しつつ、日本の英語教育の発展に尽力するとともに、欧米に向けて日本文化を紹介する多くの著作を残しました。
46歳のときに帰化が認められ、「小泉八雲」と改名。以後、日本人として暮らし、1904(明治37)年に心臓発作で亡くなるまで日本で過ごしました。
14年間にわたる日本での生活の中で、松江で過ごした期間はわずか1年3カ月ほどでしたが、八雲にとって松江は家族を得ることができた大切な場所です。
執筆活動も支えた妻・セツの存在
八雲は小説や紀行文、評論、エッセイなどさまざまな作品を残しました。中でも『耳なし芳一』や『雪女』などが収録された再話文学※『怪談』は、日本人にとってもなじみ深い作品です。
※再話文学…既存の物語や伝承に文学的表現を加え、物語として書き直された文学作品のこと
八雲は日本語の読み書きがあまりできなかったため、妻のセツが民話や怪談を語って聞かせました。セツは夫のために、自身の体験だけでなく、家族や友人から話を集めたり、古本屋を回って資料を探したりして、多くの物語を伝えたと言われています。
こうしてセツから聞いた、怖くて不思議な日本の物語を八雲が英語でつづり、再話という形式で仕上げていったのが『怪談』です。セツは生活の面だけでなく、執筆活動においても彼を支え続けた重要な存在だったのです。
小泉八雲とセツの足跡をたどる、松江市内ゆかりの地
八雲は著書『知られぬ日本の面影』の中で、松江を「神々の国の首都」と表現しています。彼が訪れた当時の松江には、文明開化の影響がまだほとんど及んでおらず、古くからの文化が色濃く残っていました。
そのため、近代化が進むアメリカから来た八雲の目には、松江が日本固有の魅力にあふれた特別な街として映ったのです。
八雲とセツが暮らした旧城下町エリアは戦禍を逃れたため、1600年頃から現在に至るまで町の区画はほぼ変わっていません。松江城を中心に広がる町割りや道筋、武家屋敷、茶室、寺社建築などが今も残されているため、2人が歩いた足跡をたどることができるのです。
当時、八雲とセツは松江のどこを歩き、何を感じていたのか。それを知るために、まずは彼らの曾孫・小泉凡氏が館長を務める「小泉八雲記念館」へと向かいましょう。
小泉八雲記念館
松江駅から北西へ車で約10分の場所にある「小泉八雲記念館」には、八雲の一生を知ることができる展示が満載です。
イギリスの寄宿学校を退学した後、職を求めてアメリカに渡った八雲は、新聞記者・ジャーナリスト、作家、英語教師とさまざまなキャリアを築いていきました。
それらの職業のすべてに共通するのが「言語」です。館内では、言葉に深い縁のある彼の直筆原稿などを見ることができます。
八雲は英語とフランス語の読み書きは流暢でしたが、日本語の読み書きだけは苦手だったとか。それでも、カタカナと「小泉八雲」の漢字は書けたようで、署名はきれいに記されています。
八雲の作品のもとになった書物の複製や、約120年前に刊行された『KWAIDAN(怪談)』の稀少な初版本などの展示も。
記者時代に書いた新聞の一部も閲覧できます。また、松江市出身の俳優・佐野史郎さんによる八雲怪談の朗読が楽しめます。
さらに、2026年9月6日まで企画展「小泉セツ—ラフカディオ・ハーンの妻として生きて」を開催中。八雲を支えたセツに焦点を当てた展示を見ることができます。セツの生涯を通して見る小泉八雲の人間像も、また視点が変わって面白いですよ。
小泉八雲記念館
- 住所
- 島根県松江市奥谷町322
- 営業時間
- 4~9月/9:00~18:00(受付17:30まで)
10~3月/9:00~17:00(受付16:30まで) - 定休日
- なし
- 料金
- 大人600円、小中学生300円
- アクセス
- 【電車】JR「松江」駅からぐるっと松江レイクラインバスで約16分、「小泉八雲記念館前」下車すぐ
【車】山陰道「松江西」ICから約10分 - 公式サイト
- 小泉八雲記念館
小泉八雲旧居
「小泉八雲記念館」の隣にあるのは、八雲とセツが5カ月間暮らした「小泉八雲旧居」。松江にやってきた当時、八雲は旅館に住んでいましたが、それから2回の引っ越しを経て、ここで暮らしました。
江戸時代に建てられた武家屋敷で、家も庭もおおむね当時のまま残っています。
居間からは、三方(南・西・北)の庭を一度に眺めることができます。
中でも、北側の庭が八雲のお気に入りだったそう。ぜひ、居間から同じ景色を眺めてみてください。
北側の庭を望む部屋には、八雲が愛用していた書斎机のレプリカがあります。16歳のときに左目を失明した八雲は、右目も近視で文字が読みづらく、顔を天板に近づけて読み書きしなければなりませんでした。そのため、背の高い机を特注したそうです。
実際に座ることもできるので、腰を下ろして執筆中の八雲の目線を体感してみてください。
小泉八雲旧居
- 住所
- 島根県松江市北堀町315
- 営業時間
- 4~9月/9:00~18:00(受付17:30まで)
10~3月/9:00~17:00(受付16:30まで) - 定休日
- なし
- 料金
- 大人400円、小中学生200円
- アクセス
- 【電車】JR「松江」駅からぐるっと松江レイクラインバスで約16分、「小泉八雲記念館前」下車すぐ
【車】山陰道「松江西」ICから約10分 - 公式サイト
- 小泉八雲旧居
塩見縄手・城山稲荷神社
塩見縄手(しおみなわて) は、松江城の北堀に沿って続く約500メートルの歴史ある通り。城下町の整備とともに生まれ、今も武家屋敷の佇まいと水辺の緑が調和する美しい景観を残しています。「小泉八雲記念館」や「小泉八雲旧居」もこの通りに面し、文学と歴史の香りが漂う散策路となっています。
近くには堀川遊覧船の「ふれあい広場乗船場」があり、松江城を取り囲む堀川を船で周遊することもできます。
「ふれあい広場乗船場」の近くには、『怪談』でおなじみの「耳なし芳一」像もあるので探してみてください。
せっかくなので、このまま松江城へ向かいましょう。城の入口は複数あり、塩見縄手を通っていくこともできますが、途中で城山稲荷神社を通る反対側のルートもおすすめです。
鳥居をくぐった先には、ずらりと並んだ大小の石狐がお出迎え。
境内でも、さまざまな表情をした狐の像がいたるところで見られます。今でも多くの像が残っていますが、明治時代には2,000体以上もあったというから驚きです。八雲はこの石狐たちを気に入って、通勤途中にしばしばこの神社を訪れていたのだとか。
八雲がお気に入りだったのが、こちらの一対の狐。当時のものは数百年の風雪で痛んでしまったので、八雲没後100年である2004年に全国の人たちからの募金で復元されました。八雲が愛した狐は現在、拝殿右脇の小屋囲いの中に納められています。
八雲はこの神社に何を感じていたのか。現地に立って思いをはせてみましょう。
城山稲荷神社
- 住所
- 島根県松江市松江市殿町477
- 参拝時間
- 24時間
- 定休日
- なし
- アクセス
- 【電車】JR「松江」駅からバスで約16分
【車】山陰道「松江西」ICから約10分
松江城
城山稲荷神社から5分ほど歩けば、松江城に到着です。松江城は1611(慶長16)年、織田信長・豊臣秀吉・徳川家康の3代に仕えた堀尾吉晴(ほりお よしはる)によって築城されました。
松江城の外壁は黒い下見板張りで覆われています。これは雨風を防ぐだけでなく、火矢や鉄砲に備えた防御、そして補修のしやすさを兼ね備えた、実戦向きの構造です。
城内には、現存天守の中で唯一残る井戸や、八雲が著書に記した当時のしゃちほこなどを見ることができます。
築城当時の技術を駆使した木製の階段や柱なども見られるので、ゆっくり巡ってみてください。
天守最上階の5階からは、松江の町並みを見渡すことができます。
より深く松江城を知りたい場合は「まつえ時代案内人」によるガイドツアー(事前予約制 1人1,600円)の利用もおすすめ。武者たちが城内の各ポイントを解説しながら丁寧に案内してくれますよ。
松江城
- 住所
- 島根県松江市殿町1-5
- 営業時間
- [本丸開門]4~9月/8:00~18:30、10〜3月/8:00~17:30
[天守閣]4~9月/8:30~18:00(最終受付17:30)、10〜3月/8:30~17:00(受付終了16:30) - 定休日
- なし
- 料金
- 入場無料
※天守閣への入場は大人800円、子ども400円 - アクセス
- 【電車】JR「松江」駅からバスで約10分
【車】山陰道「松江西」ICから約10分 - 公式サイト
- 松江城
松江歴史館
城内を存分に見学したあとは、松江城の東側に建つ「松江歴史館」でひと休み。
館内の大広間からは100坪ほどある枯山水の庭、そして遠くには松江城が望めます。広々とした空間でゆっくり景色を堪能しましょう。
大広間の隣にある「喫茶きはる」では、抹茶や松江の和菓子をいただけます。
一押しは、「抹茶と上生菓子セット(落雁付)」(1,100円)。上生菓子は数種類の中から選択可能です。取材時はわらびもちを注文しました。口に入れた瞬間、すぐにとろける繊細な舌ざわりと、甘くて優しい味わいが抹茶と相性ぴったりです。
和菓子やお茶は「喫茶きはる」内にあるテーブル席でも飲食可能ですが、大広間でいただくこともできます。景色を眺めながら、じっくり味わうのも良いですね。
一息ついたら、基本展示室へ。ここでは松江城や城下町の成り立ち、藩政や産業、人々の暮らしなど、当時の様子を紹介しています。展示の一角では、小泉八雲の怪談を音声で楽しむこともできます。
隣の「ミュージアムショップ縁雫(えにしずく)」には、八雲が好きだったと言われる羊羹(ようかん)のレシピを再現した「ハーンの羊羹」(1,080円)など、お土産にぴったりな商品がそろっているので要チェックです。
松江歴史館
- 住所
- 島根県松江市殿町279
- 営業時間
- 9:00~17:00(観覧受付16:30まで)
※「喫茶きはる」は9:30~16:30(L.O.) - 定休日
- 月曜日(祝日の場合は翌平日休み、12月29日~1月1日休み)
- 料金
- 展示室以外は入館無料
※[基本展示]大人700円、小中学生350円
※企画展示は別途観覧料必要(料金は展示によって異なる) - アクセス
- 【電車】JR「松江」駅からバスで約10分
【車】山陰道「松江西」ICから約10分 - 公式サイト
- 松江歴史館
八雲の怪談&奇談に登場するスポット
子どものころから民話に触れ、目に見えない世界に対して想像を巡らせていた小泉八雲。彼は、日本の怪談に愛情や慈悲などの普遍的なメッセージを見出し、たくさんの怪談作品を残しました。
そのおかげで、忘れられかけていた民話や仏教説話が再び注目され、多くの人に知られるようになったのです。単に怖いだけではない、八雲怪談の舞台となった場所をいくつかご紹介します。
月照寺
松江城から西に車で約5分の場所にある「月照寺(げっしょうじ)」は、八雲が一番好きだったと言われているお寺です。
敷地内には大きな亀の石像があり、これは松江藩の財政改革などに大きく貢献した松平不昧(まつだいら ふまい)が、父の長寿を願って奉納したと伝えられています。
全長4.75メートル、推定総重量20トンもあるこの巨大な像を誰がどうやって作り、寺に運びこんだのか。詳細を記した史料がなく、多くの謎に包まれています。この大亀にはいろいろな言い伝えがあります。
――「 月照寺の大亀」 ——
ある殿様が亀を愛するあまり石像を建てましたが、殿様の死後、その石の亀が夜ごと動き出し、町で暴れるように。困った住職が諭しても、亀は「自分でも止められない」と涙するばかり。そこで住職は亀の背に大きな石碑を置き、動けないように封じました。
この大きさの亀が暴れている姿を想像すると恐ろしいですね。一方で、自分でも衝動を抑えられなくなってしまうほど殿様の死にショックを受けた亀のことを思うと、どこか切なさも感じます。
月照寺
- 住所
- 島根県松江市外中原町179
- 参拝時間
- 10:00~16:00(入場15:30まで)
※6月のみ8:30~17:30(入場17:00まで) - 定休日
- なし
- 拝観料
- 大人700 円、小・中学生500円、未就学児無料
- アクセス
- 【電車】JR「松江」駅からバスで約15分
【車】山陰道「松江西」ICから約15分 - 公式サイト
- 月照寺
大雄寺
松江城から南西へ車を約5分走らせた先にある「大雄寺(だいおうじ)」は、石垣を積んだ珍しい造りの山門が特徴的なお寺。ここは、八雲の怪談「飴を買う女」の舞台となりました。
―― 「飴を買う女」——
毎日遅い時間になると、とある小さな飴屋に白い着物に身を包んだ蒼白の女が水飴を買いにやってきました。気になった飴屋の主人が尾行すると、女は墓地の中へと入っていったのです。
翌日、一緒に来てほしいと手招きする女とともに主人が墓地まで行くと、墓の下から赤ん坊の泣き声が聞こえてきます。墓を開けると、先ほどの女の亡骸と生きている赤ん坊がいて、傍らには水飴の入った小さなお椀が置いてありました。
幽霊となった母親は、水飴で我が子の面倒を見ていたのでしょう。八雲はこの話を「愛は死よりも強し」と結び、親から子どもへの深い愛情を伝えるエピソードとして紹介しています。
大雄寺
- 住所
- 島根県松江市中原町234
- 参拝時間
- 境内拝観自由
- アクセス
- 【電車】JR「松江」駅からバスで約25分
【車】山陰道「松江西」ICから約12分
普門院
「普門院(ふもんいん)」は、松江開府の際に建立された天台宗の寺院です。境内には、茶室「観月庵(かんげつあん)」もあります。八雲の怪談には、この「普門院」の名前が登場する奇談もあるのです。
―― 「小豆とぎ橋」——
普門院の近くに架かる「小豆とぎ橋」では夜な夜な女の幽霊が小豆を洗っており、「杜若(かきつばた)の歌」を口ずさむと災難が降りかかると恐れられていました。
ある侍がこの噂をあざ笑い、「杜若の歌」を口にしたところ、自宅の前に見知らぬ女が立っていました。女から「仕えている奥方様より預かってまいりました」と渡された文箱を開けると、中には幼い子どもの血だらけの生首が!侍が慌てて家の中へ入ると、座敷の床には首をもぎ取られた我が子の死体が横たわっていました…。
現在はもう「小豆とぎ橋」はありませんが、松江城を囲む堀川の遊覧船に乗ると、「普門院」のそばで女の幽霊の立体彫刻が見られます。
普門院
- 住所
- 島根県松江市北田町27
- 営業時間
- 8:00~16:00
- 定休日
- 火曜日
- 料金
- 拝観のみ300円、お抹茶付き900円
- アクセス
- 【電車】JR「松江」駅からバスで約25分
【車】山陰道「松江西」ICから約12分 - 公式サイト
- 普門院
松江大橋・源助柱
松江市は宍道湖(しんじこ)や中海(なかうみ)、大橋川に囲まれているため、水の都とも呼ばれています。市内には橋も多く、中でもひときわ歴史があるのが「松江大橋」です。
現在架かっている橋は17代目ですが、八雲が松江に来たころに15代目の開通式が行われ、随筆集・紀行文集『知られぬ日本の面影』で「松江大橋」のことを以下のようにつづっています。
―― 「源助柱(げんすけばしら)」——
松江大橋は、初代藩主・堀尾吉晴がこの地に最初に架けようとした橋でした。しかし工事は難航し、完成してもたびたび流されてしまいます。そこで、雑賀町(さいかまち)に住む源助という男を人柱として橋脚の川底に埋めたところ、橋はその後300年もの間、壊れなかったそうです。
その後、この橋脚は源助の名を取って「源助柱」と呼ばれるようになりました。そして、月のない夜には柱のあたりに赤い火の玉が現れると語り継がれ、人々に恐れられたといいます。
源助柱記念碑
- 住所
- 島根県松江市白潟本町(松江大橋南詰)
- アクセス
- 【電車】JR「松江」駅からバスで約5分
【車】山陰道「松江西」ICから約10分
松江城とギリギリ井戸
『知られぬ日本の面影』の中で、八雲は松江城のことを「不気味で怪奇なものを寄せ集めた竜のようだ」と表現しています。西洋人である八雲にとって、故郷のものとはまったく見た目が異なる日本の城は奇妙な造りに見えたようです。
また、城の意匠や細かな細工などが八雲の好奇心をかき立てたのかもしれません。松江城については、こんな話を残しています。
―― 松江城にまつわる奇談 ①——
築城工事が難航していた松江城の人柱として、踊り好きの美しい娘が生き埋めにされてしまいました。その犠牲のおかげか、城はようやく完成したものの、奇妙なことが起こります。城で若い娘が舞を踊ると、なぜか天守が大きく揺れ始めるようになったのです。やがて城下では「盆踊りをすると城が揺れる」と恐れられるようになり、ついには「盆踊り禁止令」が出されたといいます。
八雲がいた当時だけでなく、実は2025年の現在も、松江城の近くで盆踊りは行われていません。
―― 松江城にまつわる奇談 ②——
松江城を築城する際、鬼門の方角にある石垣が何度積んでも崩れてしまいました。宮司に調べさせると、石垣の根元から槍の穂先が刺さったドクロが出てきたのです。宮司が三日三晩にわたって祈祷を行うと、不思議なことに石垣は無事完成し、さらに掘り進めると清らかな水が湧き出したと伝えられています。
こうして新たに誕生した井戸は「ギリギリ※井戸」と呼ばれるようになったのです。
※ギリギリ…方言で「つむじ」のこと。
八雲が愛した松江の風景
八雲が愛した松江の日常は、『知られぬ日本の面影』の中で鮮やかに描写されています。
松江大橋と宍道湖
松江大橋は日中の姿も美しいですが、朝の静けさに佇む景色や、夕陽に照らされてオレンジ色に染まるシルエットもまた格別です。
八雲は、湖に面した小さな蕎麦屋から沈む夕陽を眺めることを楽しみにしていました。日本の夕陽には、故郷や異国で見た景色とは違う、独特の趣を感じていたようです。
また、宍道湖の風景もお気に入りだったそう。時間によって刻々と移り変わりゆく空の変化に心打たれたと言います。
小泉八雲とその妻・セツのゆかりの場所や、怪談の舞台となったスポットが点在する島根県松江市。歴史情緒あふれる町並みと豊かな自然の美しさが調和し、ふらっと散策するだけでも楽しいエリアです。
2025年度後期の朝ドラ『ばけばけ』をきっかけに興味を持った方は、ぜひ八雲とセツの足跡をたどる旅へ出かけてみてください。
取材・文/原口可奈子 撮影/猪俣 淳
