九州のほぼ中央に位置する熊本市は、都市部ながら緑あふれる街です。市内の上下水道をまかなえるほど天然の地下水に恵まれ、この清らかな水によって育まれてきたお米やフルーツなどの農産物や地元グルメなど、食の宝庫でもあります。
シンボルの熊本城周辺には「加藤神社」や、電車で20分ほどのところには「水前寺成趣園」といった全国的に知られる観光スポットが点在しているのも特徴。そこで、熊本城観光のついでに、これらの名所をつなぐ熊本市電の1日乗車券を利用して、熊本市内観光を楽しみながら地元グルメも味わうモデルコースをご紹介します。
目次
熊本市へのアクセス
熊本市への片道は、「阿蘇くまもと空港」まで飛行機を利用すると、東京・羽田空港から約2時間、大阪・伊丹空港から約1時間10分。阿蘇くまもと空港からJR熊本駅まではバスで約1時間です。博多からは、九州新幹線で約30分です。
まずは熊本市電1日乗車券を購入
旅のはじめに、熊本市電の「1日乗車券」購入を。通常は大人170円、小児(小学生以下)90円の均一運賃ですが、1日乗車券なら有効期限内に指定の1日限り、大人500円、小児250円で乗り降り自由に。さらに、「熊本市現代美術館」では前売料金で企画展に入れるなど、市内施設をお得に利用できます。おでかけ前にチェックするのがおすすめです。
使用する年・月・日の銀色シール部分をコインなどで削り、降車時にその面を乗務員に見せるだけ。市電車内のほか、熊本駅総合観光案内所や桜の馬場城彩苑総合観光案内所などで購入できます。便利なモバイルチケットもあるので、使いやすい方を購入してみては。
熊本市電1日乗車券
- 詳細
- 熊本市交通局公式サイト
(水前寺公園駅)歴史ある美しい水前寺成趣園を散策
水前寺成趣園
「水前寺成趣園(すいぜんじじょうじゅえん)」は、肥後細川家としての熊本藩初代藩主にあたる細川忠利が、数寄屋風の御茶屋を建てたのにはじまり、光尚、綱利と三代にわたって作庭。1671年に現在とほぼ同じ規模に完成したという、回遊式庭園です。
木々の姿が水面に映るほど澄んだ、阿蘇伏流水の湧水池を中心に、富士山を模した築山や松などが織りなす美しい景観を楽しみながら、散策できます。
園内には、「西南の役」で焼け野原となった熊本の復興や発展を願い、1877年に創建された「出水神社」があります。細川藤孝などを御祭神に、歴代の熊本藩主や忠興の正室・ガラシャ夫人も奉祀。美しい庭園を作り上げた歴代藩主たちに思いを馳せながら、参拝してみては。商売繁盛や学業成就、縁結びなどにご利益があるそうです。
春先には梅や桜など、四季折々の景観も楽しめる「水前寺成趣園」。出水神社本殿前の鳥居と同じように熊本地震で倒壊した入口の鳥居も、2021年にようやく再建しています。この真新しい鳥居へと続く表参道には、地元グルメやおみやげのお店が軒を並べていますので、こちらも立ち寄ってみてはいかがでしょうか。
水前寺成趣園
- 住所
- 熊本市中央区水前寺公園8-1
- 開園時間
- 8:30~17:00(入園は16:30まで)
※ 北門は9:30~16:00 - 休園日
- なし
- 入園料
- 大人(16歳以上)400円、子ども(6~15歳)200円
- 詳細
- 水前寺成趣園公式サイト
- アクセス
- 市電「水前寺公園駅」から徒歩約3分
(通町筋駅)アートと熊本のソウルフード「太平燕(タイピーエン)」を堪能
熊本市現代美術館
熊本市の中心部に位置する「熊本市現代美術館」では、気軽にアートを楽しむことができます。そのひとつが、国際的アーティストによる「アートワーク」。なかでも、「ホームギャラリー」では、マリーナ・アブラモヴィッチ氏による壁一面の本棚やジェームズ・タレル氏による天井照明を鑑賞しながら、本棚に収納された美術関連の本を閲覧しつつ過ごせるので、都市部にいながらゆっくりくつろげると人気のスポットです。
また、「ホームギャラリー」の向かいにある階段下の小窓をのぞくと、鮮やかで幻想的な草間彌生氏の作品が。このように、建築と一体化したアートワークが、館内に点在しています。企画展示室以外は無料で楽しめますので、ここでしか出合えないアートを、満喫してみてはいかがでしょうか。
併設のミュージアムショップでは、企画展に関連したグッズや、熊本在住作家の雑貨など、幅広いアイテムを販売。おみやげ探しにおすすめです。また、アーティストである館長の日比野克彦氏のイメージスケッチをもとに、館内改装計画が進行。2022年10月には、ミュージアムショップも新たな姿になる予定です。どんなお店になるのか、お楽しみに。
熊本市現代美術館
- 住所
- 熊本市中央区上通町2-3
- 開館時間
- 10:00~20:00 ※展覧会入場は19:30まで
- 休館日
- 毎週火曜日、年末年始
※火曜日が祝日の場合は開館し、翌平日休館 - 入館料
- 企画展示室のみ観覧料が必要
※ 観覧料は展覧会の内容により異なるため、詳しくは問い合わせもしくは現在の展覧会ページを確認 - 詳細
- 熊本市現代美術館公式サイト
- アクセス
- 市電「通町筋駅」から徒歩約2分
紅蘭亭 下通本店
創業より80年以上、地元で愛されている老舗中国料理店「紅蘭亭(こうらんてい)」。本場の手法をベースに、九州で育まれた素材本来の味わいを生かしたさまざまな料理が楽しめるなか、気軽に味わえると人気の「太平燕(タイピーエン)」は、学校給食にも登場する熊本のソウルフードです。もともと福建省の祝宴の一品が、長崎を経由し、熊本に根付いたのだそうです。
「太平燕」(920円・2022年5月時点の価格)は、心地よい歯ごたえの緑豆春雨を使用。野菜や海鮮、豚肉に素揚げ玉子と具がたっぷりの、見た目以上にボリューム満点の春雨料理です。鶏ガラと豚骨をベースに、福健省の天日塩で味を整えた上品ながら深い味わいスープが「紅蘭亭」の特徴。ブラックペッパーとゴマ油が、食欲をそそる一品です。
「下通アーケード」にある本店は、コンサートホールも備えた大型店舗。旅の途中なら、予約なしでも利用しやすい2Fテーブル席がおすすめです。熊本ならではのランチをという時は、戦災や熊本震災を乗り越えて受け継がれてきた、「紅蘭亭」の「太平燕」を味わってみては。定食やコースでも味わえます。
紅蘭亭 下通本店
- 住所
- 熊本市中央区安政町5-26
- 営業時間
- 11:00~21:00(L.O.20:00)
- 定休日
- なし
- 詳細
- 紅蘭亭公式サイト
- アクセス
- 市電「通町筋駅」から徒歩3分
(花畑町駅)熊本城をより楽しみながら注目のオニ盛りスイーツも
熊本城 二の丸広場
江戸時代には上級家臣の屋敷が立ち並んでいたという二の丸。横井小楠(よこいしょうなん)など優秀な人材を輩出した、藩校「時習館」もここにあったそうです。芝生が広がる開放的な広場になった現在は、ピクニックを楽しむ人々など憩いの場に。駐車場そばには、無料休憩所もあるのでひと休みするのにもおすすめです。
この広場は、大小の天守閣と“三の天守”とも呼ばれる宇土櫓(うどやぐら)を、横並びに見ることができるということで、写真撮影スポットとしても人気です。右側の大天守と中央の小天守は、西南戦争直前に焼失し、1960年になって再建されたものですが、宇土櫓は江戸時代から現存している国指定重要文化財です。
熊本城 二の丸広場
- 住所
- 熊本市中央区二の丸2-1
- 詳細
- 熊本城公式サイト
- アクセス
- 市電「花畑町駅」から徒歩約13分
※桜の馬場城彩苑から二の丸駐車場まで無料シャトルバスあり(9:00~17:00)
加藤神社
二の丸広場から10分ほど歩いた先にある「加藤神社」。熊本城を築城し、街づくりや産業・文化の振興で熊本発展の礎を築いたと地元で尊崇され、「清正公(せいしょこ)さん」と親しまれている、加藤清正が御祭神です。2022年5月から2024年3月ごろまで、「令和の大造営」による工事が行われていますが、参詣はできます。
加藤神社は、熊本城天守閣をより近くで望めるスポットとしても有名。植栽も手入れされるなど、気軽に撮影できるよう配慮されているので、誰でも迫力ある天守閣が撮影できます。まずは、お参りしてから撮影してみて。そのほか境内には、「清正公お手植えの樹」や、文禄の役の記念に持ち帰り、橋づくりの原型にしたと伝わる「太鼓橋」などもあります。
加藤神社
- 住所
- 熊本市本丸2-1
- 詳細
- 加藤神社公式サイト
- アクセス
- 市電「花畑町駅」から徒歩約23分
桜の馬場 城彩苑 熊本城ミュージアムわくわく座
ゲームや体験、寸劇などを楽しみながら、熊本城や熊本の歴史を学べるエンターテイメント施設です。入口を入ると、熊本地震からの復旧状況をリアルタイムで伝える定点ライブカメラ映像の紹介コーナーや、石を模したパズルで熊本城の石垣技術に挑む「石垣積み体験」があります。
熊本城の立体模型で紹介するのは、「熊本城被災・復旧プロジェクションマッピング」。石垣や櫓の倒壊など、音や映像を使って詳細に再現するので、当時の状況を体感できます。さらに奥には、駕籠や馬の模型に乗って、江戸時代の殿様気分になれるコーナーも。ここならではの体験に大人も子どももワクワクしながら楽しめますよ。
そして一番人気は、2F「ものがたり御殿」で行われる「熊本城VR」です。江戸時代や熊本地震前の熊本城を再現した映像を映しながら、スタッフが熊本城特別見学ルートの見どころをガイド。横の通路が南口券売所へと続くので、「熊本城VR」を観てから特別見学ルートへ向かえば、昔と今の姿を比較しながら、より楽しめるのでおすすめです。
桜の馬場 城彩苑 熊本城ミュージアムわくわく座
- 住所
- 熊本市中央区二の丸1-1-1
- 営業時間
- 9:00~17:30 ※わくわく座入館は17:00まで
- 定休日
- 年末
- 入館料
- 大人300円、小・中学生100円
熊本城・わくわく座2館共通券 大人850円、小・中学生300円 - 詳細
- 熊本城ミュージアムわくわく座公式サイト
- アクセス
- 市電「花畑町駅」から徒歩約5分
TENTE(てんて)
「熊本城ミュージアムわくわく座」と同じ「桜の馬場城彩苑」には、熊本のグルメやおみやげの店が集まる「桜の小路」があります。そこで、主に熊本産のフルーツなどを使用したフレッシュジュースなどを販売しているのが「TENTE(テンテ)」。この店には、SNSなどで話題のソフトクリームがあります。
それが、この「オニ盛りいちごソフトクリーム」(500円)。思わず声を上げてしまうほど、フレッシュな熊本産いちごがまんべんなくトッピングされています。さわやかな甘みたっぷりのいちごと、熊本産いちごとバニラをミックスしたミルキーないちごソフトクリームが、絶妙なハーモニーをかもし出します。
「オニ盛りいちごソフトクリーム」は、1月から5月までのスーパーでいちごが出回る時期に登場。その後は、旬の熊本産フルーツを使ったものに変わるそう。熊本はさまざまなフルーツの産地なので、次はどんなソフトクリームが登場するのか楽しみです。スタッフがとてもフレンドリーなので、その時のおすすめを気軽に聞いてみてください。
TENTE
- 住所
- 熊本市中央区二の丸1-1-2 桜の馬場 城彩苑 桜の小路(さくらのこうじ)内
- 営業時間
- 9:00~19:00
※12月~2月は18:00まで。営業時間が変更となる場合あり - 定休日
- 年末2日間
- アクセス
- 市電「花畑町駅」から徒歩約5分
(辛島町駅)熊本の“よかもん”雑貨をおみやげに
丸紋堂
“人と人がつながる店”をコンセプトに、熊本で作られた雑貨がそろう「丸紋堂(まるもんどう)」。伝統の染め方で作る手ぬぐいや、南阿蘇産の厳選オーガニックハーブを使用した石鹸、レトロ風デザインの「紙鞄」などオリジナル商品をはじめ、洗練されながらもぬくもりある、“熊本のよかもん(いいもの)”が充実。ちょっとしたギフトや、おみやげ探しにぴったりのお店です。
オリジナル商品で一番人気は、「てぬぐい 豆絞り」です。熊本の老舗染物店が、1枚ずつ伝統の手捺染(てなっせん)で染め上げるので、てんとう虫柄など細かい部分も美しく仕上がっています。速乾性も高く、タオル代わりに使うのも最適。お店のホームページで、活用法やお手入れ方法も紹介しているので、贈った相手にも教えてあげるといいかも。
「豆絞りは厄除け、てんとう虫は幸運のシンボル」という手ぬぐいのような縁起物のほかにも、器や小物といったアイテムも豊富。手頃な価格のものから、さまざまな商品がそろっているので、熊本ならではの素敵なおみやげを探したい時はここを訪れてみて。
丸紋堂
- 住所
- 熊本市中央区下通2-7-32
- 営業時間
- 11:00~19:00
- 定休日
- 水曜日
- 詳細
- 丸紋堂公式サイト
- アクセス
- 市電「辛島町駅」から徒歩約5分
熊本で一度は味わいたい「いきなり団子」
熊本市内の和菓子屋さんなどでよく見かけるのが「いきなり団子」。“いきなり”というのは、熊本の方言で簡単、直接などの意味があるそうですが、「いきなり団子」という名前は、“いきなり来たお客さんにもすぐに出せる”という意味や、輪切りにしたさつまいもを直接団子の生地で包んで蒸せばできる、“簡単に作れる団子”という意味から、など諸説あるようです。
小麦粉やだんご粉などで作った生地は、少しもちっとした食感です。さつまいもやあずき餡の甘みと生地の塩気が絶妙。素朴でどこか懐かしさを感じる味わいです。最近では生地や餡を変えたものや、さつまいも以外のものを一緒に包み込むなど、バリエーションも豊富になっています。熊本へでかけたら、一度は食べてみてください。
熊本城などの名所や地元グルメを気軽に楽しめる今回のモデルコース。初めて熊本市を訪れる人や、もう一度熊本の名所を見たい、そんな人にもおすすめです。急に旅したくなった時でも、出張で半日空いてしまったという時でもOK。熊本市電の1日乗車券を買って、効率的に旅行を楽しんでみてはいかがでしょうか。
取材・文/辻 美穂 撮影/長野 優幸