
広島県南西部、瀬戸内海に浮かぶ江田島市にある温泉宿「江田島荘」。「ワールドラグジュアリーホテルアワード2024」で3冠に輝いた、いま注目の宿です。「こころと身体が元気になる温泉宿」をコンセプトに掲げる江田島荘に実際に滞在し、その魅力と3冠受賞のポイントを探ってきました。
瀬戸内海に浮かぶ江田島

「江田島荘」がある江田島市は、江田島と能美島、そして周辺の島々からなる自然豊かな地域です。
瀬戸内海らしい温暖な気候下で、オリーブや柑橘類、野菜の栽培が盛ん。また、江田島湾特有の深く入り組んだ地形が牡蠣を育み、広島県内有数の牡蠣の生産地にもなっています。

島内には、世界三大兵学校のひとつ、「旧海軍兵学校(現・海上自衛隊幹部候補生学校)」があり、赤レンガの庁舎など一部は見学も可能。そのほか、風光明媚なスポットが多数あり、観光もグルメも存分に楽しめます。

そんな江田島へのアクセスは、広島港から高速船で約30分。呉から江田島へ橋がつながっていて、車でもアクセス可能。呉からは車で40分ほどですが、船に揺られて向かうことで、より島旅の風情を感じられます。
江田島荘は中町港からわずか1キロメートルほどの場所にあり、港から宿への無料送迎(要事前予約)も。天気のよい日は、散歩しながら向かうのも気持ちよさそうです。
「WORLD LUXURY HOTEL AWARDS 2024」3冠を達成

江田島荘は、“ホテル界のアカデミー賞”といわれる「WORLD LUXURY HOTEL AWARDS 2024」の「Luxury Hot Spring 部門」で、日本初の世界最高位を受賞。「Luxury All Inclusive Hotel 部門」、「Luxury Small Hotel 部門」でも、日本で初めてアジア大陸最高位に輝き、3冠の快挙を成し遂げました。
主な審査基準は、サービス、ラグジュアリー、プレゼンテーションの3つ。「ラグジュアリー」は、物質的な豊かさや高価さを超えた、心を満たす快適さや非日常の体験という意味でのぜいたくな世界を指します。
「プレゼンテーション」は、単にモノを見せるのではなく、客室のインテリアや料理の盛り付け、心地よい照明や香り、スタッフの身のこなしに至るまで、ホテル全体がひとつの調和した舞台として機能していることが評価されます。

2021年に開業し、わずか3年で3冠の快挙を成し遂げた立役者が、総支配人の阿部さん。地元出身でもなく、江田島荘の立ち上げにあたって、初めて江田島に来たといいます。
もともとこの場所には、地元の人に愛された温泉施設がありました。その施設がなくなってしまうのではと、江田島荘の開業に抵抗をもつ地元の人も少なくなかったそうです。
そこから阿部さんは、希少な美人の湯、豊富な地元食材、美しい海の目の前という立地に恵まれながら、人口が減り続けている江田島をなんとか盛り上げたいと尽力し、今では毎日たくさんの旅行者がやって来るように。館内の温泉は日帰り入浴も可能で、地元の人もひっきりなしにやって来ます。江田島荘が地元の人たちにも愛されていることがうかがえます。
ここまで奔走してきただけに、「受賞を目指してスタッフ一同努めてきたのでうれしいです!」とひとしおの喜びをにじませていました。
希少な泉質が自慢の温泉

総支配人・阿部さんが絶対の自信を持つのが、温泉の泉質。弱放射能泉と強塩泉の組み合わせで源泉温度が31℃というのは、日本に2万はあるとされる源泉のなかでも、ここ以外にないのだとか。
通常のおよそ26倍という塩分濃度を誇る強塩泉は、お湯が少し口元に触れただけで、あまりのしょっぱさに驚くほど。塩化物泉には、血行促進や肌表面の汚れを落とす美肌効果が期待できます。

そして、ラジウムやラドンを含む弱放射能泉は、血行促進や免疫力を上げる作用が期待できますが、ラドンは気体として吸引するのが効果的なのだそう。江田島荘の31℃というぬるめの源泉温度は、ラドンがちょうど気化する温度で、その効果を効率よく取り込めるということなのです。
さらに、強塩泉のおかげで、漬物のように体の水分が抜けたところに、温泉の成分がぐっと取り込まれることも見逃せないポイントです。

大浴場には、加温も加水もしていない源泉そのままを堪能できるぬる湯と、ちょうどいい温度の内湯に露天風呂、寝湯、ミストサウナがそろいます。

また、湯あがり処は、15:00~23:00にはナイトバーに早変わり。少年期を江田島で過ごした浜田省吾さんらのレコードがかかるなか、呉でおよそ50年にわたってバーを経営していたマスターによるオリジナルカクテルを楽しめます。
ノンアルコールメニューも豊富で、なかでもバナナジュースが人気なのだそう。大人も子どもも、ゆったりとした夜を過ごせます。

大浴場のほか、2階と3階には半露天の貸切風呂も。人目を気にせず、のんびりと温泉を満喫できます。
- 貸切風呂 料金
- 50分2,200円
※宿泊者のみ利用可能
※チェックイン時に予約受付
地酒や夜食の無料サービスも! 心もからだも満たす体験の数々
広島のワインや地酒の無料サービス

到着してまず、広島が誇る銘菓・もみじ饅頭の老舗「にしき堂」による和菓子「楓果(ふうのか)」のおもてなしが。栗の風味豊かなカステラ生地に、栗を練り込んだ白あんがたっぷりと入った一品に、旅の疲れがほどけていきます。


そして、ロビーラウンジの一角に設けられた「陽だまりカウンター」には、時間帯ごとにアルコールや江田島のカフェが手がけたコーヒー、おやつ、夜食などが無料で用意されます。

15:00~17:00には江田島産の旬の果実で作られたスイーツも並びます。この日は、爽やかな風味が広がる夏みかんのパウンドケーキでした。

特に目を引いたのは、広島県産のワインや地酒。この日並んでいたのは、広島の「三次(みよし)ワイナリー」の「TOMOEワイン」、呉で造られる日本酒「雨後の月」、地元・江田島の「江田島銘醸」が造る「同期の櫻」や「津田酒造」の「島の香」。

6:00~24:00の間、自由に楽しめるので、少しずつ飲み比べをしたり、好みの銘柄をじっくり味わったり……。

さらに、22:00からはシェフ特製の夜食が登場します。メニューは日替わりで、この日はお肉がゴロゴロ入ったカレーでした。ほかには、鯛茶漬けやそぼろごはんなどが登場することもあるのだそう。
朝は、目覚めのドリンクとして紫蘇ジュースなどが用意され、時間帯に合わせたサービスもうれしいポイントです。
穏やかな海を眺める癒やしのひととき

ロビーラウンジの前には、足湯を備えたテラスが。また、目の前にはビーチが広がり、夏は海水浴やSUPも楽しめます。
テラスへの出入り口には、シャボン玉やランタンのほか、タオルやサンダル、ブランケット、麦わら帽子などが備わっていて、そのさりげない心配りに感動しました。
江田島荘の前の海には、潮が引いたときにだけ小道が現れる「ネイビーロード」も。テラスからビーチに出て、海辺を散歩したり、ネイビーロードを歩いて渡ったり、足湯に浸かったり。ときには、波風がまったくない、鏡のような美しい海面を見られるかもしれません。
また、ふだんは静かな海を眺めてのんびり過ごせますが、対岸にある海上自衛隊江田島第1術科学校の卒業式の日は、護衛艦が出港する式典の様子も近くに見ることができます。
全室オーシャンフロント! 上質なくつろぎの時間を演出する客室
ビューバス、マッサージチェア付き「特別室」

江田島荘には、全室オーシャンフロントで32室7タイプの客室があります。
一番広い「特別室」は、60平米のゆったりとした造りで4名まで宿泊可能。マッサージチェアが置かれ、一面の大きな窓からは、牡蠣を養殖する牡蠣棚や瀬戸内海らしい凪いだ海を一望できます。

特別室はバスルームもオーシャンビュー。夕暮れ時や朝など、時間帯によって異なる風景を眺めながら、のんびりとバスタイムを満喫できます。

特別室は、バルコニー付きとルーフバルコニー付きの2タイプあり、ルーフバルコニーに出てみると、間近にビーチやネイビーロードを見渡せます。
2番目に広い「デラックス洋室」

館内で2番目に広い「デラックス洋室」は、広さ50平米、4名まで泊まれるお部屋です。バスタブが備わり、バリアフリーのお部屋もあります。
温泉三昧派におすすめ「スタンダード和洋室」

「スタンダード和洋室」は、33平米で定員4名のBタイプと、31平米で定員2名のAタイプがあります。客室にバスルームはありませんが、その分居室部分を広く使えます。お風呂は大浴場や貸切風呂があるので、温泉三昧を楽しみたい人にぴったりの客室です。
“こころと身体が元気になる”アメニティ

江田島荘では「島の自然を感じてほしい」との想いから、全室、テレビが置かれていません。バルコニーやマッサージチェア、窓辺のソファで穏やかな海を眺めるもよし、畳でゴロゴロするもよし、読書したり、部屋に備わるオーディオでお気に入りのプレイリストを流すもよし。また、全室に天然のアロマオイルも備わり、心と身体が喜ぶ、思い思いの過ごし方ができます。

もうひとつ、「こころと身体が元気になる」取り組みとして特徴的なのが、摘みたてのフレッシュハーブティー。部屋に用意されている小さなカゴを持って、テラスにあるハーブガーデンへ。好きなハーブを摘みとって、オリジナルハーブティーを作ることができます。


ルームウェアは上下セパレートタイプで、3種類のデザインから選べ、サイズ展開も豊富。レストランやロビーラウンジも含め、館内はこのルームウェアで利用できるので、自宅のようにリラックスして過ごせます。

そして、シャンプー、コンディショナー、ボディソープは、広島県産のオリーブやレモン、瀬戸内海の海藻が配合された「ぎゅっとシリーズ」。その名の通り、瀬戸内海の恵みをぎゅっと詰め込んだ自然由来のバスアメニティです。

さらに、スキンケアアメニティもそろい、荷物を減らせてうれしいかぎり。
地元の旬の食材にこだわった食事

ディナーと朝食は、海を望むレストラン「locavore(ロカヴォーレ)」でいただきます。店名は「local=地元」と「vore=食動物」をかけ合わせた造語で、地元の食材への敬意が込められています。
ディナーは地産地消の「えたじまフレンチ」

ディナーは、近隣でとれた新鮮な食材で作るフレンチ。コースの内容は1~2カ月ごとに変わり、スタッフが生産者のもとに足を運んで厳選した、そのとき一番おいしい食材を味わえます。
この日の前菜は、瀬戸内産カンパチのカルパッチョと、江田島産の牡蠣とレモンを使った一品。パンに添えられたオリーブオイルも、もちろん江田島産。ドリンクには、「江田島ワークス」のクラフトビールを楽しみました。

魚料理は、「広島レモンサーモン」のムニエル。瀬戸内レモンが入った飼料で育ったサーモンは、さっぱりとした味わいが特徴です。

メインには、和牛サーロインが登場。江田島ではイノシシなどもよく捕れるそうで、日によってはジビエ料理が提供されることもあるそう。

江田島産のいちご、広島・湯来(ゆき)町の「砂谷(さごたに)牛乳」を使ったデザートで、コースを締めくくりました。
朝採れ野菜や瀬戸内の魚介がうれしい、島の朝ごはん

朝食は「島のお母さんの朝ごはん」がテーマ。朝採れ野菜のサラダや、瀬戸内でとれたアジの干物、江田島の魚介でダシをとった味噌汁など、地元食材をふんだんに使ったほっこりする料理が並びます。

ご飯は、広島県産のお米を宿オリジナルの南部鉄器で炊きあげたもの。鉄器は蓄熱性に優れているため、米1粒1粒がふっくら。味噌汁も食べる直前に火を入れるため、体も心も温まります。
地元の伝統工芸や産業を守る取り組み

江田島荘では、食材以外にも、地元のものが至るところに取り入れられています。
まず、大きな窓の外に海を望む開放的なロビーラウンジ。ここの大きな壁をはじめ、客室の一部の壁には、紙布(しふ)と呼ばれる丈夫で吸湿性に優れた紙の織物が壁紙として使われています。
紙布作りは約130年続く江田島市の伝統産業で、日本に2社しかない紙布製造企業のうちの1社が、現在も島内で稼働しています。江田島荘は、地元の伝統や企業を守り、伝えていく役割も担っているのです。

また、和紙作家・堀木エリ子さんのアート作品も館内を彩ります。
特に印象的だったのは、ラウンジを照らす円柱状の照明。底面に、「キリンビール」のシンボルにもなっている聖獣・麒麟が描かれています。キリンビールの麒麟マークをデザインしたとされる六角紫水(ろっかく しすい)さんが江田島市出身という縁からなのだそうです。

ラウンジの一角にはミニライブラリーが。ここにある本は、広島市の平和記念公園近くにある書店「READAN DEAT(リーダンディート)」による選書で、江田島や広島にまつわる書籍などが並びます。

さらに、ミニライブラリーにはガラスペンも用意。棚には、隣の呉市で創業し、初めて国産万年筆を生み出した「セーラー万年筆」のインクおよそ120色がそろいます。なかには、夜桜、藤姿、金木犀、雪兎といった日本の四季を感じる美しい名前のインクも。

ガラスペンやインクは自由に使ってOK。昨今では万年筆に触れる機会どころか、紙に字を書くことすら少なくなったという人もいるかもしれません。その日の気分で選んだインクとガラスペンで、旅の思い出や手紙を綴ってみてはいかがでしょうか。

また、客室のベッドリネンには総支配人・阿部さんの特別なこだわりがあるといいます。採用されているのは、石川県の老舗寝具店「石田屋(いしたや)」のもの。
江田島荘ではリネンのクリーニングを、地元の障がい者就労支援施設に依頼していて、アイロンがけが苦手ということから、アイロンがけ不要で寝心地のよい石田屋のリネンが選ばれたそうです。パキッとのりが効いたシーツとはまた違った、柔らかい肌あたりで包まれるような心地よさがあります。

のんびりとした島時間を感じながら、唯一無二の温泉に浸かり、地元の旬をたっぷり味わって、心も身体も癒やされた「江田島荘」での豊かな時間。ラグジュアリーでありながら、島と人の温かさも魅力で、また帰ってきたくなるようなぬくもりにあふれていました。
えたじま温泉 江田島荘
- 住所
- 広島県江田島市能美町中町4718
- アクセス
- 広島駅から広島港まで市電で約30分、広島港から中町港まで高速船で約30分、中町港から車で約4分(無料送迎あり/要事前予約)
- 総部屋数
- 32室
- チェックイン
- 15:00(最終チェックイン19:00)
- チェックアウト
- 11:00
- 駐車場
- 無料
撮影・取材・文:アンドウミク