本物に出会う旅。世界のトップブランドを支える兵庫県北播磨の「播州織」を求めて

兵庫県の中央に位置する、北播磨(きたはりま)地域。田畑に囲まれるのどかなこの土地には、200年以上前から伝わる「播州織(ばんしゅうおり)」という織物があります。

染め上げた糸で織る「先染め」という技法を用いる播州織は、独特の風合いや品質の良さなどで世界的に注目されており、ルイ・ヴィトンやバーバリーなど、世界のトップブランドでも愛されています。

今こそ長く愛せるこだわりの「一点もの」を自分に。本物に出会う旅に出掛けてみませんか。

 

播州織とは

tamaki niime

播州織は江戸時代中期の1792(寛政4)年に比延庄(ひえしょう)村(現在の西脇市比延町)の宮大工・飛田安兵衛(ひだやすべえ)が京都西陣(北西部)から北播磨に織物の技術を持ち帰ったのが起源と伝えられています。

播州織の特徴は、糸を先に染め、染め上がった糸で柄を織る「先染織物」であること。

さらに、多くの川が集まる北播磨地域は染色業に適した水資源が豊富で、これが播州織をより発展させました。

 

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一般的な生地は白い布にプリントを施すか、織りや編みの工程を終えた後に生地や製品を染める「後染め」をしているものがほとんどですが、播州織は染め上げた何万色もの糸をさまざまな方法で織ることで、何万種類もの柄と風合いを作り出すことができます。

また「先染め」にすることで色落ちしにくく、縦糸と横糸の織りなす柄でより深い表現ができるのが特徴です。

 

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播州織はその品質の高さで海外からも高い評価を受け、ルイ・ヴィトンやバーバリーなど、世界的ブランドの生地にも採用されています。

以前は「播州織」の名が表に出てくることは稀でしたが、今は播州織を独自に発信する作り手も増え、ブランド価値向上を図るべくさまざまな取り組みを行っているとのこと。

それでは、実際に播州織を求めて、西脇市へ行ってみましょう!

オープンファクトリー

唯一無二の一点ものを求めて「tamaki niime Shop&Lab」へ

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兵庫県では県内の魅力を発信すべく、自治体と協力し「オープンファクトリー」(工場見学)を各所で実施しています。

 

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数あるオープンファクトリーの中で、今回伺ったのは、ファッションデザイナーで播州織アーティストの玉木新雌(にいめ)氏が代表を務める工房兼ショップ「tamaki niime Shop&Lab」です。

ここでは、買い物はもちろん、「tamaki niime」のものづくりに関わるすべての工程を見ることができます。

西脇市へ行く際の所要時間は大阪からなら車で約1時間~1時間20分、電車で約2時間です。神戸からなら車で約1時間、電車を利用して2時間弱で行くことができます。大阪からは高速バスも出ているのでチェックしてみてください。

 

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綿花の栽培から染色、デザイン、機織り、製品化、販売まで一貫生産する「tamaki niime Shop&Lab」では、ものづくりの全ての現場を体感できます。

作業を分断せず、生産工程の全てを一つの場所で行っている、とてもめずらしいスポットです。

 

ラボ内に羊が!原料も自給自足

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まず驚いたのがラボ内の庭に放牧されている羊たち。なんと羊毛を収穫すべく、多種の羊を敷地内で飼育しているのです。収穫された羊毛は、糸つむぎなどのワークショップで使用されることも。

 

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アルパカも6頭飼育されています。動物たちも“tamaki niime村”の一員として大切に育てられており、ここで働くスタッフの癒やしになっているのだとか。ただの「原料」としてではなく、素材すべてに尊敬を払っていることが感じられました。

春には毛刈りイベントも開催予定です。少し離れた畑では綿花(コットン)も栽培されています。

 

播州織の要となる染色の工程

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播州織の一番の特徴である「先染め」の工程を見せていただきました。さまざまな染色方法を活用しており、藍染や玉ねぎの皮を用いた天然染めも行っています。絶妙な調整により、唯一無二の色が日々生まれる場所です。

 

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例えば、一言に「青」と言っても数え切れないほど色味があります。さまざまな青色の糸が並ぶ光景は圧巻!

さらに手染めにより独特のにじみやグラデーションを生み出すこともでき、まさに無限大の可能性が感じられるスペースです。

 

織り方も「tamaki niime」メイドに

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次はラボの心臓部である織機が並ぶ部屋へ。たくさんの織機たちがガシャンガシャンと轟音を響かせて動いています。

1960年代以降の織機を使い、ゆっくり織り上げていく設定にすることで柔らかな肌触りと風合いを実現。配色をデザインしたうえで、独自の染色によって表れる色が変わっていきます。その偶発性を楽しむのがtamaki niimeが作る播州織の面白さ、魅力でもあります。生地の段階で全てが一点ものなのです。

 

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こちらはTシャツやニット素材を編む機械。日本に数台しかないような旧式の丸編み機から最新のホールガーメント機まで多様な編み機があり、カットソーやセーターを製作しています。

 

tamaki niime

生地が仕上がったら、縫製へ。日々デザイナーたちがディスカッションしつつ服作りが行われています。ラボ内各所に書かれているメッセージにも注目してみてくださいね。

 

完成したアイテムは全てが一点もの!

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tamaki niime

施設内には完成したアイテムが並ぶショップもあります。ここにある全ての作品が一点もの!

形が同じでも色の組み合わせや柄が同じものはひとつとしてありません。だからこそ、何を購入するのか一日中迷ってしまう人もいるのだとか。一期一会の運命的な出会いを楽しんでください。

 

tamaki niime
ショール2200円〜

独創的なショールは、「tamaki niime」の代表作。軽い肌触りで気持ちよく、暑い日にさらっと羽織ることもできますが、冬の防寒アイテムにもなる、通年使えるショールです。使うほどにふんわり馴染んでいき、さらに使いやすくなっていきます。

「性別・年齢・国籍を問わず誰にでも愛されるもの」をモットーにつくられるショールたち。あなたの運命を変えるひとつが、きっとあります。

【インタビュー】玉木新雌さん

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玉木 新雌さん

代表兼デザイナーの玉木新雌さんにお話を伺いました。

 

玉木さんは、ある播州織職人に出会ったのをきっかけに2008年西脇市に移住。シャツ作りをする中で偶然出来上がった柔らかい生地を何気なく首に巻いてみたところ、その心地良さに感動したそうです。それがきっかけで「tamaki niime」のショールが生まれ、ブランドがスタートしました。

 

「ここへ来てものづくりに触れ、自分で作ってみたいという気持ちが大きくなって……」とのこと。ものづくりの中で人と関わり、人が集まり、生産現場はどんどん拡大し今に至ります。

 

一貫生産によるものづくりにこだわる理由

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「全体像がわからないと、ものづくりは難しい。ここには糸ができるところから全ての工程が詰まっています。お互いの作業を皆理解しながら仕事できるので、意思疎通もしやすく、ブレないんです」
と語る玉木さん。

 

また、技術の継承も大きな目的のひとつだと言います。

「この土地に根づいた技術を途絶えさせたくない。もっと外に出すとか効率のいいやり方はあるかもしれない、けどここで踏ん張って次の世代へ繋げていくことで技術の流出も防げ、ひいては日本の利益にもなると思うんです」

 

「毎日実験」から生まれる一点ものという特別感

tamaki niime

先にも述べたようにここの作品はすべてが「一点もの」です。一見非効率のようにも見える、一点ものにこだわる理由について、玉木さんはこう説明してくれました。

「時代のニーズに合わせて売れるものを作るのではなく、私たちのものづくりは『毎日実験』なんです。作るたび配色もディティールもよりよく変化させていく、だから結果的に一点ものになるんです。」

 

播州織特有の「先染め」という技法から生み出される幾万色の糸。さらにそれを何万通りの配色で織っていくことで生まれる色彩の可能性は無限です。

「一点もの」ばかりが制作されることこそが「tamaki niime」というブランドの支柱となっています。

「tamaki niime Shop&Lab」を訪れる際は、ぜひ選ぶ時間をたっぷり確保して行ってくださいね。

 

tamaki niime Shop&Lab

住所
兵庫県西脇市比延町550-1
営業時間
11:00〜17:00
料金
Lab自由見学可、ショップ入場無料
スタッフによるLab見学案内(ショールプレゼント付き)1名3300円
Lab見学案内+ショール制作の体験(ショールカット・ブランドタグつけ体験)1名4400円
※要予約
定休日
月、火曜
アクセス
【車】中国自動車道「滝野社」ICより約18分
【電車】JR「日本のへそ公園」駅より徒歩11分
公式サイト
tamaki niime
オープンファクトリー
申し込みはこちら

イベント

西脇市では播州織を盛り上げるべく、様々なイベントを開催しています。

 

作り手の想いを知れるオープンファクトリーイベント「もっぺん」

もっぺん
画像提供:西脇市役所商工観光課

兵庫県西脇市・多可町で開催するイベント「もっぺん」では、地場産業である「播州織」に限らず、印刷、木工など地域内の多種多様な産業のものづくり現場を一斉開放。
現場で作り手の想いを知ることができる見学や展示、ワークショップを実践しています。

 

2025年度は9〜10月ごろに開催予定。詳しくは公式サイトをチェックしてください。

 

 

播州織を生産者から直接買えるイベント「播博」

播博
播博
画像提供:西脇商工会議所

「播州織産地博覧会」通称「播博(ばんぱく)」は、西脇市・多可町を中心とした地場産業である「播州織」をテーマにした産地イベントです。

 

西脇市のまちなかエリアの空き店舗や空き地を利用して、播州織の担い手自らが生地・製品を販売。町歩きしながらショッピングを楽しむことができます。

次回は、2025年6月1日(日)10:00~16:00開催予定です。

 

公式サイト
播博

 

播州織工房館

播州織のアンテナショップ「播州織工房館」でお買い物!

播州織工房館

「播州織工房館」は、かつて播州織の織物工場だった建物を改装した、播州織の工房&アンテナショップ。柔らかな光を取り込む、昔ながらののこぎり屋根が趣深い建物です。ここには播州織を使ったさまざまな作家の作品が並んでいます。

 

播州織工房館

店内には、生地はもちろん定番のストール、バッグ、シャツやデニムなど播州織のさまざまなアイテムが勢ぞろい。昔ながらの柄やアーティストによる個性的な模様などもあり、ついつい目移りしてしまいます。現地だからこそのお手頃価格で販売されているのもうれしいところです。

 

播州織工房館
6重ガーゼ(約115×150cm) 各3000円

特によく売れているというのが6重ガーゼの生地。端をロックミシン済みなので、生地として加工するというより、夏のかけ布団やソファカバーにそのまま活用できるのが便利。優しい肌触りなので赤ちゃんのおくるみにもできると、意外な用途でも人気になりました。

播州織は色柄がくすむこともなく、柔らかく織ってあるので使うほどにふわふわになるのだとか。

 

播州織工房館
播州織ハンカチのし袋 各660円〜

お祝い用ののし袋を播州織のハンカチで包んだアイデア品も販売されています。

のし袋は50×50cmのハンカチとして日常使いできるので、見るたびに記念日を思い出せる素敵なアイテムです。

 

播州織工房館
播州織の扇子1980円〜

播州織の多彩な柄を生かした扇子も。糸を「先染め」していることにより色褪せることがなく丈夫です。

 

播州織工房館

約50年前まで工場で稼働していたという織機も常設展示されています。日曜日には実演もあるそう。目の前で縦糸と横糸が織られていく姿は圧巻です。

 

播州織工房館

住所
兵庫県西脇市西脇452-1
営業時間
11:00〜17:00
入場料
無料
定休日
月曜(祝日の場合は翌日)、年末年始、お盆
アクセス
【車】中国自動車道「滝野社」ICより約15分
【電車】JR「西脇市」駅より市バスで約8分
公式サイト
播州織工房館

 

播州ラーメン「西脇大橋ラーメン」

西脇大橋ラーメン

お気に入りの播州織を手に入れた後は、ご当地グルメの甘いラーメン「播州ラーメン」を食べに行きましょう!

 

「播州ラーメン」とは、中太の縮れ麺にチャーシューやネギ、もやし、海苔などシンプルな具材が載ったラーメンのこと。その最大の特徴は、何と言っても「甘み」を感じるスープ。昔、播州織工場で働いていた女子工員が食べやすいように工夫された結果、甘くなっていったのだそう。

鶏ガラや豚骨、野菜をじっくり煮込んだうえで、醤油をベースに仕上げています。

 

西脇大橋ラーメン
特製ラーメン730円(2025年4月~780円)

今回紹介するのは、1960(昭和35)年創業の「西脇大橋ラーメン」。播州ラーメンの元祖と言われています。

取材日も開店前から並んでいる人がいるほどの人気ぶり!

鶏ガラ、豚ガラ、魚介、香味野菜などで丁寧にとったスープに、播州たつの市の「龍野醤油」を使用した「かえし」を合わせています。香り高い醤油と、優しい甘さがクセになる味わいです。

 

西脇大橋ラーメン

このお店で提供されるのは、「特製ラーメン」の1種類のみ。量が2倍の「ジャンボラーメン」は1,100円(2025年4月~1,110円)で販売されています。

店内はお座敷とテーブル席があります。手前の壁には有名人のサインもたくさん飾られていました。

 

西脇大橋ラーメン

住所
兵庫県西脇市上野432-7
営業時間
【平日】11:00〜15:00(L.O.14:45)、18:00〜20:00(L.O.19:45)【土日祝】11:00〜20:00
※スープがなくなり次第終了
定休日
水曜(祝日の場合は翌日)
アクセス
【車】中国自動車道「滝野社」ICより約16分
【電車】JR「新西脇市」駅より徒歩約24分
駐車場
あり(10台)

周辺のおすすめ観光スポット

古き良き町並みや田園風景がのどかな西脇市。周辺には観光スポットも点在しています。時間に余裕があればぜひ立ち寄ってみてください。

 

宇宙をテーマにした大型遊具が魅力「日本へそ公園」

日本へそ公園
画像提供:日本へそ公園

実は、日本列島の中心「日本のへそ」は兵庫県西脇市に位置しています。東経135度と北緯35度が交差するこの地点にあるのは「日本へそ公園」。12.5ヘクタールの広大な公園です。

園内には「ふわふわドーム」や滑り台、大型遊具がそろう「宇宙っこランド」もあり、子連れにぴったり。

 

日本へそ公園
画像提供:日本へそ公園

秋にはメタセコイア並木の紅葉が美しく、多くの人が訪れます。ほか、科学館や美術館、レストハウスもあり、大人も十分楽しめますよ。

JR加古川線「日本へそ公園駅」が園内にある全国でもめずらしい立地で、アクセスは抜群です!

 

日本へそ公園

住所
兵庫県西脇市上比延町
営業時間
入園自由※園内各施設は大体10:00〜夕方まで
入場料
無料※テラ・ドーム、岡之山美術館は入館料要
定休日
なし※園内各施設は月曜
アクセス
【車】中国自動車道「滝野社」ICより約20分
【電車】JR「日本へそ公園」駅より徒歩すぐ
詳細
日本へそ公園

 

見応え満点の歴史的建造物「コヤノ美術館 西脇館」

コヤノ美術館 西脇館
コヤノ美術館 西脇館
画像提供:コヤノ美術館 西脇館

旧国鉄鍛冶屋線建設や西脇商業銀行の立ち上げに私財を投じ尽力した豪農・藤井滋吉(しげきち)の家を再生し、作られた「コヤノ美術館 西脇館」。

約3000平方メートルの敷地内には1980(明治23)年に建設された母屋や、大正期のモダンな洋館などがあり、宮大工も感嘆する明治・大正・昭和の一流建築を一気に見ることができます。

 

コヤノ美術館 西脇館
画像提供:コヤノ美術館 西脇館

中庭には美しく整備された枯山水も。心落ち着く風景です。

 

コヤノ美術館 西脇館

住所
兵庫県西脇市市原町139
営業時間
【3~11月】10:00〜17:00【12〜2月】10:00〜16:00※日曜のみ開館
入館料
大人1,000円、小・中学生300円
定休日
月~土、祝日
アクセス
【車】中国自動車道「滝野社」ICより約15分
【電車】JR「西脇市」駅よりタクシーで約10分、または市バスで20分
公式サイト
コヤノ美術館 西脇館

 

自然豊かで古い町並みが素敵な西脇市。

「播州織」という伝統技術を大切に守っており、オープンファクトリーでは作り手の人たちの熱い想いを感じることができました。一度作品を目にすれば思わず播州織の世界に魅入られてしまうはず。

大量生産のものがあふれている現代社会で、「自分だけのお気に入り」を探しに行く旅は、自分自身を振り返る旅にもなりうるはず。

周辺スポットやグルメも満喫できるので、ぜひ休日は「本物に出会う旅」に出かけてみては。

 

 

取材・文/加藤絵里子 撮影/玉川美保

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