乳がん患者さん4人が語り尽くす、患者さんならではの「食」と「旅」事情

シリーズ「がん患者さんが見つけた旅の喜び」

日本人の約2人に1人が生涯でがんを患います。家族や近しい友人も含めて考えたら、がんと関わることは、誰しもありえること。一方で、約半数のがん患者さんが、体調面での課題や漠然とした不安から、旅行をあきらめたり行き先を変えたりした経験を持っています。がん患者さんが安心して旅行を楽しめる社会を実現したい。患者さんの声をもとに、このシリーズは生まれました。

がんをきっかけに「旅」と距離ができてしまった患者さんが、新たな「旅」の楽しみを見つけ、それぞれの大切な思い出を作る。その一歩を、後押しするコラムシリーズです。

今回は、乳がん患者さん4名の座談会

手術を経てアピアランス(外見)の変化を体験した50歳代の乳がん患者さん4名に集まっていただき、罹患前後で経験した食の嗜好の変化や、旅に求めるものを語り尽くしてもらいました。

シリーズ「がん患者さんが見つけた旅の喜び」

参加者

ともさん:2018年の検診で右乳がんが見つかり、10月に乳房温存手術施行。しかし、術後の病理検査にて断端が陽性であり、2019年2月に再手術施行。その時に自家組織で同時再建。ホルモン療法継続中。

にゃんころさん: 2016年3月左胸に5センチメートルの乳がんと鎖骨転移を指摘。化学療法で腫瘍が小さくなり、左胸全摘しリンパ節も切除。分子標的薬・放射線治療を経て、今はホルモン療法継続中。2019年11月に再建手術。

さこさん:2007年初発左乳がんに対して左胸全摘術し、その後抗がん剤とホルモン療法。2016年3月に再発、遠隔転移。ホルモン療法と抗がん剤で治療中。

あやさん:2002年初発左乳がんに対して乳房温存手術後、放射線治療を経て、ホルモン療法を5年間完遂。治ったと思っていたら、2017年に局所再発。左胸全摘しインプラント再建。今はホルモン療法継続中。

※あやさんはビデオ通話による参加

聞き手:株式会社メディカル・インサイト 鈴木英介

 

酒断ち・肉断ち・牛乳断ち。乳がんになると、食の嗜好が変わる

――お集まりいただきまして、ありがとうございます。今日は、乳がん患者さんにとっての“食”と“旅”をテーマにいろいろとお話を伺っていきたいと思います。最初に“食”の話をしましょう。がんに罹患されて、嗜好が変化される方も多いようですが、皆さんはどうでしたか?

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あや:初発時は玄米とかオーガニック、マクロビにハマりました。大酒飲みだったけど、1~2年は控えめにして。お肉もやめていましたね。あと、今でも添加物は摂らないようにしています。スーパーで買い物をする時に食品表示のラベルを確認する、“裏から見る”はずっと続けています。

 

さこ:私も初発の時は、肉を食べなくなりましたね。お酒は完全断ちで。それまではめちゃくちゃ飲んでいて、お酒が原因の1つかなと思っていたので。

買い物の時に“裏から見る”は私もですね。あと、油には気をつけています。米油など酸化しにくい油にするように。玄米は胃腸の調子が良くないので、7分づきのお米とか。牛乳が良くないらしいというような噂もあったので、初発の時は摂らなかったですね。

 

シリーズ「がん患者さんが見つけた旅の喜び」
シリーズ「がん患者さんが見つけた旅の喜び」

あや:そうそう、私も牛乳は何となく避けて、豆乳に。

にゃんころ:私の場合は、お酒は元々飲めないし食生活もバランス良くしていたのに、がんになってしまったので、あと何をすれば良いのかわからなくて...。

びわの葉っぱを煎じて飲んだり。玄米も良いと聞いていましたが、消化が悪く化学療法もやっていたので、白米にちょっと混ぜる程度。加工食品は、昔は子どものお弁当に1~2個は入れていたけど、今はやめていますね。お肉は鶏肉が多くなりました。

 

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とも:私はワインとチーズが大好きで、息子2人だったので、ジャンクフードもお肉もたくさん。体を見直さなければと思って10年ぶりに検診に行ったのがきっかけで、がんが見つかりました。ちょうどそういうタイミングだったので、お野菜を摂るとか、糖質オフへ切り替えるとか、お出汁も天然のものに。添加物も気をつけなければと思って、私もカロリーと一緒に“裏から見る”ようになりました。

 

注:本コラム内で記されている食の嗜好の情報や考え方については、あくまで参加されている患者さん個々の認識や考え方であり、本サイトが推奨するものではありません。

乳がん手術後の最大のハードルは、お風呂

――なるほど、皆さん罹患前後では“食”への気の使い方が大きく変わったんですね。罹患前後の変化という意味で、皆さんアピアランス(外見)の変化も経験されているかと思いますが、変わったことは何かありますか? それが理由で避けられるようになった場所とか嫌な場面とか、お話しづらいこともあるかもしれませんが、可能な範囲で教えていただけますか?

全員:お風呂、お風呂!

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あや:再建したけど、それでもやっぱり気になる。

さこ:私は再建してないから、やっぱり最初は嫌でしたね。今は、結構平気ですけど。

にゃんころ:温泉で子どもに見られるのが嫌。髪の毛は隠せるけど、胸は隠しきれないので、足が遠のきます。

とも本当にお風呂は大きな勇気がいるなと。通っているヨガは個室のシャワーなので続けられていますが、大きなお風呂だったら行けなくなっちゃっていたかな。

 

シリーズ「がん患者さんが見つけた旅の喜び」

――そういう場面になったら、どうされているのですか?

あや:体洗う用のタオルと、隠す用の手ぬぐいを持って入ります。

さこ:そうそう。タオル2枚使いで。

 

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にゃんころ:私は左胸なので、左が壁になる場所を考えて。

あや:悪いことしているわけじゃないのに、こそこそしますよね。露天風呂は目立ってしまう気がして入りづらい。内風呂なら良いけど。

にゃんころ鍵がついている家族風呂なら良いですけど。

とも:私はお風呂のハードルが高くて、旅に出られなくなっちゃいました。体力的には問題ないのに。むしろ、海外の方が客室のシャワーで済ませられるのでいいかなとも思うくらいです。

 

乳がん患者にとって、本当にうれしい旅のおもてなしとは

――話がもう“旅”の方に入ってきていますね。では、食や、話題に出たお風呂がらみで、旅先でうれしかったおもてなしは何かありますか?

シリーズ「がん患者さんが見つけた旅の喜び」 有馬温泉 有馬温泉街

さこ:1番は、兵庫県・有馬温泉の宿ですね。治療が落ち着いて髪の毛が出たか出ないかくらいの頃で、食事にとても気を付けていました。「肉は食べないです。でも記念の旅なのです」と言ったら、夜のお食事に神戸牛ではなくて明石の鯛を付けてくれたんです。普通はそこだけ抜きになったり、さびしいメニューになったりするのに、「お祝い」という感じにしてくれて、とても感激しました。

あとは、群馬県・猿ヶ京温泉のお宿。貸切温泉が自由に使えて、鍵もかけられる。それに、狭くもなかった。食事も、健康に気を使った野菜が多かったです。バリアフリー対応もしっかりしていましたね。

 

 

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――逆に、実際に旅に出て苦労されたり、困ったりした、もしくは戸惑った経験のある方はいますか?

さこ:乳がんの患者さん歓迎を謳っているお宿に、「乳がんです」と事前に言って泊まりに行ったら、部屋の浴衣の上に乳がん患者用の入浴着がポンと置かれているだけで。がっかりしたと同時に悲しくなりました。それ以後、乳がんのことは絶対に言わないようになりました。

乳がん用の入浴着って、「私乳がんです」と主張しているみたいで使いにくい。「タオルは浴槽につけないでください」とあるのに、周りの人に衛生上の心配をされてしまうのでは、とも思うし。乳がんだからといって形式的におもてなしするのでなく、本当にお客さんにとって良いことは何だろうと考えてくれているところが、良い宿です。

にゃんころ:乳がんだからといって、機械的に何かされても困っちゃう。さりげない配慮はうれしいけど、あからさまに違う扱いだと逆にうれしくないです。

全員:(うんうんと頷く)

 

宿泊先であったらうれしい、さりげない配慮

――なるほど、それが患者さんの心理なんですね。では、患者さんとして、宿泊先にあるとうれしい「さりげない配慮」としてどのようなものが考えられますか?

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あや:私、今ホルモン療法中で、ホトフラ(ホットフラッシュ。ホルモン療法中の乳がん患者に特徴的な副作用で、火照り)がすごくて、寝ている間に汗だくになっちゃうので、朝起きた時の着替え用に浴衣がもう1枚欲しいです。あと、お布団も調整ができるとうれしいな。薄いのが2枚あるとか。

とも:それ、本当にそうです。普通の更年期の方にも言えるので、ぜひデフォルトでやってほしい。

さこ:浴衣は体隠すのにささっと着るから、すぐベチャベチャになっちゃうのよね。

とも:バスローブじゃないけど、湯上り用のものが1枚あると。とにかく、タオルや浴衣などは、もう1セットずつあるとうれしいですね。

 

シリーズ「がん患者さんが見つけた旅の喜び」 イメージ

にゃんころ:あと、衝立のような、目隠しみたいなものが脱衣場にあると良いなと。

さこ:そうそう、ちょっとしたシャワールームみたいな場所でも良いんです。

あや洗い場のハードルが、とにかく高いんです。鏡がついているから。洗う時って素だから、衝立があるとうれしい。

さこ:鏡は小さくて顔だけ見えるくらいが良いな。

全員:そうそう!!

 

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――お食事ではどうですか?

あやワンポーションが小さくて、ちょっとずつ出てくると、女性としては良いですね。

さこ:ちょっとずついろいろ、プリフィクス(いくつかの選択肢の中からメニューを選べること)で選べるとか。

あや:乳がんになると太っちゃいけないとかあるので。ヘルシー路線で、かつ見た目も気分が上がるのがうれしいです。

 

家族との旅、友人との旅、一人旅。思い出の旅にも様々な形がある

――罹患後、一番思い出に残っている旅を教えてください。

シリーズ「がん患者さんが見つけた旅の喜び」

にゃんころ:母と娘と3人で行った、湯西川ですね。乳がんになって、しばらく旅行に行くつもりはなかったけれど、母が紅葉を見たいと言い出して。電車で行けて、平日空いている、食事も部屋でできそうだったので、決めました。実はその時、娘が旅行記(写真集)を作ってくれたんです。

全員:(実物を見て)わー、これは素敵ですね!

 

シリーズ「がん患者さんが見つけた旅の喜び」 カウアイ島 カウアイ島の風景(あやさん撮影)

あや:私は、初発10年で「乳がんからは卒業」といったタイミングで行った、ホノルルマラソン。海外のレースは初めて、フルマラソンも初めて。一人で行って、走りきって、がんを克服したみたいな気持ちになれました。

あとは局所再発に対して乳がんの手術と再建の手術がやっと落ち着いた時に行った、 ハワイ・カウアイ島でのトレイルランニング。薬の副作用と体力の低下で、走りの方は全然ダメだったのですが、ゴール地点で見た風景が、「生きている」と実感できるもので。またこういう風景を見るために頑張ろうと奮起させられるワンシーンでしたね。

 

シリーズ「がん患者さんが見つけた旅の喜び」 白山 白山の山道

さこ:再発してから、旅の意味が変わったと感じます。初発は記念旅行のように、イベントとしての旅。再発してすぐは、人生再出発の旅。去年、もう生きられないかもと思った時は、思い出作りの旅モードでしたね。

その中で1番印象が強いのは、再発して1年くらい経った時。石川県と岐阜県にまたがる白山に登った旅かな。薬物療法の副作用で手足症候群の水ぶくれができていた時でしたが、友達と三大霊山をめぐろうということで、白山・立山を5日間で回ろうと計画したんです。

 

シリーズ「がん患者さんが見つけた旅の喜び」 白山 白山でのご来光(さこさん撮影)

主治医に登山しても良いか確認してから事前にすごく準備をして、いろんな登山グッズや靴擦れ防止クリームを駆使して、標高約2,700メートルを登りきりました。肺肝転移で抗がん剤治療中だったんですけどね。

それまでずっと雨続きだったのに、その日だけ晴れて山頂でご来光が見られて、「ああ、生きていて良いんだ」と。再発してから結構落ち込みが激しかったけれど、この旅が1つの転機になりましたね。

 

乳がんになったからこそ見えてくる、旅の持つ意味

――最後に、旅に関してこれは話しておきたい、ということはありますか?

シリーズ「がん患者さんが見つけた旅の喜び」

あや:初発の時は30代の半ばで、未来は永遠に続くみたいに思えていたのが、がんになって、いつまで生きられるか分からないと思った時に、「なるべく海外も含めていろんなものを見ていこう」というモードになりました。

とも:私、それ息子に言われました。「今まで子育てで自分のために何かをどうするというのはなかったのだから、ママ、あとは自分のことを楽しむと良いよ」と言われて、見ていないところを見に行こうと思えたんです。それでも温泉はちょっと無理と思っていたけれど、今日皆さんのお話を伺って、行ってみようという気になってきました。

 

シリーズ「がん患者さんが見つけた旅の喜び」 さこさんが集めた御朱印

さこ:去年、数えてみたら12回も旅していました。それは、進行がんで「いつまで旅に行けるか分からない」という思いに突き動かされたからです。でも今は、幸い治療の効果が出て少し落ち着いているので、私にとって旅の意味はまた変わってくると思います。

これからは、新しい風景を見たいというよりは、心を落ち着かせたり、生きていることに感謝したり、常に隣にある死というものとどう付き合っていくかを確認するための旅、となりそうです。これまで以上に神社仏閣とか自然が豊かなところを目的地にしていきたい。そして、新たな出会いや自分を元気にしてくれる機会があることを、また期待したいです。

 

――なるほど、皆さんそれぞれに、今の状態だからこその旅の意味を見出されているのですね。今日は、同じ状況の患者さんや周囲の方にとっても、すごく参考になるようなお話が出てきたのではないかと思います。忌憚のないご意見をたくさんいただき、ありがとうございました。

※本コラム内で記されている食の嗜好の情報や考え方については、あくまで参加されている患者さん個々の認識や考え方であり、本サイトが推奨するものではありません。


“旅行から、がん克服”プロジェクト

がんになっても安心して旅を楽しめる社会を実現する「“旅行から、がん克服”プロジェクト」。がん患者さんと旅に関するコラム、旅に対する意識調査結果、旅行情報のQ&Aなど、がん患者さんの「旅」を後押しする情報をご紹介します。


取材・文/鈴木英介(株式会社メディカル・インサイト)

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