夜の帳（とばり）が下りる頃、箱根の森に包まれた一軒のホテルが静かにチェックインの時間を迎えます。入口の先にあるのは、飴色に輝くチーク材のカウンターと色とりどりのボトルたち。落ち着いた雰囲気のバーに迷い込んだかと思いきや、実はここは大人の隠れ家「bar hotel 箱根香山（かざん）」です。
バーという名のホテルで、大切な人と時間を気にせずにお酒を酌み交わす…ここで過ごす夜はいつもよりゆっくりと更けていきます。
目次
バーカウンターでチェックイン
箱根小涌谷の静かな森の中にたたずみ、近くには「千条（ちすじ）の滝」がある「bar hotel 箱根香山」。その滝と山の稜線をモチーフにしたホテルロゴが印象的なエントランスでは、和紙を使ったカーテンが訪れる人たちを非日常の世界へと誘います。
「bar hotel 箱根香山」のチェックインは18時。館内に入ってすぐの「the bar」でバーテンダーから差し出されたのは、黄金色に輝くシャンパンでした。今宵の滞在を祝うのにぴったりなウェルカムドリンクです。
存在感ある一枚板のカウンターには、数名のバーテンダーが常駐。滞在の案内をしたり、優雅な手つきでカクテルを作ったりと振る舞いも軽やかです。間接照明のやわらかな光が心地よく、一部を除いてほとんどのドリンクが宿泊料金に含まれているため、ここで一杯たしなんでからお部屋に向かうゲストも多いそう。
ウイスキーだけでも数百種類が揃い、ノンアルコールのモクテルなども充実。アルコール度数が低いカクテルも豊富に用意され、お酒好きもそうでない人も、誰でも気軽にバーの雰囲気を味わえる心づかいがうれしいですね。
白ワインをベースにピーチやチェリーのリキュールを組み合わせたオリジナルカクテル「KAZAN」は、爽やかな香りと甘みがうるわしい特別な一杯。上品な余韻が残ります。
「バーテンダーとの会話もバーの魅力のひとつですので、こちら側を一段下げることであえてお客様とも目線が合いやすいようになっています。カップルやご友人同士など、さまざまな方がご宿泊されますが、ここで過ごすひとときが特別なものになればうれしいですね」と、バーテンダーの三露弘樹さん。
「the bar」で注文できるフードもお酒とのペアリングを考慮し、ハモンセラーノやチーズなどの軽食から相州和牛のグリルなどメインになるものまで多彩です。
特にスパイスが香る「足柄牛 バーホテルオリジナルビーフカレー」（3,300円）は人気で、お米を炊く際に日本酒を隠し味に入れることで甘みが深まるのだとか。
つい長居したくなるパブリックスペース
「the bar」には薪の香りがかぐわしい暖炉も設置され、ここでもゆっくりお酒が飲めるようソファが置かれています。
ゆっくりと照明の色が変化し、モノクロームの千条の滝が幻想的に浮かび上がります。気鋭のアーティストとして知られる柏原晋平氏がホテルのコンセプトを聞き、壁に直接描いたというオリジナル作品は、酒墨画という独自の技法で水の代わりにウイスキーを用いています。
廊下や階段などにも作品が飾られていて、滝以外にお酒のボトルを描いたものも。間接照明が作品をより抒情的に演出していますが、これはライティングデザイナーの武石正宣氏が手掛けています。
辺りが暗くなるにつれ、光と闇の共演が壁や廊下をより表情豊かにさせますが、目を引くのが茶室のにじり口を模した小さな扉。身体をかがめてくぐった先には、しんと静まり返った「smoking bar」が広がっています。
薄暗い空間は、さながら大人の秘密基地。葉巻も販売されているので、せっかくなら煙をくゆらせながら、お気に入りのお酒をゆっくり味わってみましょう。
こだわりの家具が並ぶ客室
客室は全21室あり、広さ46〜49平米の「スーペリア デラックス ツイン」は落ち着いた色あいでコーディネートされ、バーのムードがそのまま継承されています。
シモンズのベッドが2台置かれたお部屋の奥には、森の緑がまぶしく映えるリビングルームが。琉球畳の感触が気持ち良く、座り心地を追求したオリジナルのデイベッドとも相まって、リラックスした状態でさらに会話が弾みそうです。
シンプルでスタイリッシュなパウダールームの隣には、シャワールームも完備。イギリス発のオーガニックブランド「bamford（バンフォード）」のバスアメニティのほか、酒蔵発の自然派スキンケアブランド「MINUCA（ミヌカ）」のスキンケアセットも用意されています。
お部屋の中に置かれたアルコール類やソフトドリンクだけでなく、スナックやお菓子などもすべてインクルーシブ。小腹が空いた時にうれしいカップラーメンもエスニックなテイストで、非日常感があるものばかりです。
館内着は上品なシルエットでありながら、着心地のよさも兼ね揃えた特別な一着。現代を代表する着物作家であり、テキスタイルアーティストの斉藤上太郎氏がデザインし、男性はトップスとボトムスに分かれ、女性はワンピースです。シックな色あいは上品な夜の雰囲気を壊さず、館内すべての場所で着用できます。
132平米の「プレジデンシャル スイート」は広さもさることながら、開放的なリビングルームや和室、半露天風呂の温泉、サウナに水風呂など、充実した設備が自慢です。
リビングルームの一角にはバーキャビネットが設けられ、国内外から取り寄せたウイスキーやリキュールなどが並びます。シェイカーなどのアイテムも揃っているので、自分好みのカクテルも作れます。キャビネットのお酒、さらに「the bar」のフードメニューも無料という、まさにラグジュアリーな滞在をかなえてくれるお部屋です。
自然に囲まれたスパでリフレッシュ
「bar hotel 箱根香山」には「spa kazan」と「spa hinoki」の2つの大浴場があり、夜と朝で男女入れ替え制になっています。「spa kazan」は、箱根の山々が一望できる露天風呂が魅力。夜は星空が望め、朝は静かな空気に包まれます。
源泉の宮ノ下温泉はナトリウムー塩化物温泉で保温効果が高く、熱の湯という別名も。弱アルカリ性の泉質は肌の角質や皮質をやわらかくしてくれるので入浴後はお肌がつるつる、すべすべになっているのを実感できます。
サウナも備えており、すぐそばに水風呂もあるので動線もスムーズ。外気浴用のチェアに座れば、目の前には雄大な景色が広がり、いつも以上の”ととのい”を体験できそうです。
お酒も楽しめるプライベートスパ
ゲストが集まる「the bar」とは別に、館内奥には限られた人のためだけの秘密のバーがあります。温泉とバーが合わさった、その名も「Private spa & bar」は90分単位で利用できる貸切風呂です。
重厚感ある「black」と温かみのある「brown」の2つがあり、どちらも半露天風呂にサウナと水風呂を完備。館内で提供しているドリンクも自由に持ち込めます。
漆黒の御影石が特徴の「black」では、みずみずしい新緑がお湯にとけ込み、風が頬を撫でるなど、大自然に抱かれているような開放感を味わえます。
バーカウンターにはミネラルウォーターやソフトドリンクが揃っていて、サウナ愛好家に親しまれている「オロポ」も作れます。
ビールサーバーではその時々で異なる2種類のビールが味わえ、乾杯の続きを温泉でも楽しんでほしいというホテルの想いがしっかりと感じられます。
1日の始まりはシャンパンブランチ
「the bar」が夜にぴったりな場所なら、窓から明るい陽光が差す「lounge」は朝に訪れたい場所。観葉植物のやさしい緑色に癒やされます。
こちらでは、10時から12時半までシャンパンブランチを提供。深夜までお酒を楽しみ、翌朝はゆっくり起きたとしても十分に間に合う時間なのが、「bar hotel 箱根香山」ならではの特徴です。
ビュッフェカウンターにはグリーンスムージーやスパニッシュオムレツなど、食欲があまりなくても食べやすいメニューが並びます。
ドリンクにはシャンパンをはじめ、各種ワイン、リンゴを発酵させたシードルなどスッキリ味のものを用意。ノンアルコールのスパークリングもあり、朝から乾杯できるのがたまりません。ジンやテキーラなどもあり、こちらも自由に飲むことができます。
メインディッシュの「シェフのおまかせガレット」は、季節ごとに地元産の旬の食材を使った一品。この日は、カッテージチーズにアスパラやブロッコリーと一緒に鮮やかなエディブルフラワーが添えられていました。また、生地に駿河湾産しらすを混ぜることで、ほのかな塩味がアクセントになっています。
窓に目を向ければ、浅間山や明星ヶ岳といった山々が広がり、人気観光地の箱根が自然豊かなエリアであることをあらためて感じます。
「バーでお酒を飲みながら、そのまま宿泊できたら素敵だよね」というお酒好きの夢が実現したような「bar hotel 箱根香山」。グラスを片手に静かな夜から始まる滞在は、訪れる人を少しだけ素直にしてくれる気がします。
bar hotel 箱根香山
- 住所
- 神奈川県足柄下郡箱根町小涌谷507-4
- アクセス
- 小田急「箱根湯本」駅から箱根登山バスまたは伊豆箱根バスで「蓬莱園」バス停下車、徒歩約5分
- チェックイン
- 18:00
- チェックアウト
- 14:00
- 客室数
- 21室
- 駐車場
- あり／12台（予約不要）
取材・撮影・文／浅井みら野
