宮崎県北部、九州脊梁(せきりょう)山地のほぼ中央に位置し、「神話の里」とも呼ばれる高千穂町。神話にまつわるパワースポットや高千穂峡など、魅力的なスポットが点在しています。
そんな高千穂で注目を集めるアトラクション「高千穂あまてらす鉄道」をご存知でしょうか? まるで絵本の世界に迷い込んだかのような絶景が広がる鉄道旅を詳しく紹介します。
「高千穂あまてらす鉄道」とは?
「高千穂あまてらす鉄道」は、廃線となった旧高千穂鉄道の線路を活用したアトラクションで、高千穂駅から日本一高い鉄橋「高千穂鉄橋」までの往復30分ほどの絶景プチトリップを楽しめるというもの。
その歴史は昭和初期にまでさかのぼります。1939年に延岡~日之影駅間が国鉄日之影線として開業。1972年には延岡駅から高千穂駅までの約50キロメートルが開通し、国鉄高千穂線となります。
その後、1898年に第三セクター「高千穂鉄道」として新たなスタートを切り、地域の人々の通勤・通学の足として、また高千穂などへの旅行者の足として活躍。五ヶ瀬川の渓谷美や日本一の高さを誇る高千穂鉄橋など、車窓からの美しい風景も乗客を楽しませてきました。
そんな高千穂鉄道に2005年、猛烈な台風が襲いかかります。九州をはじめ、列島各地に被害をもたらした2005年の台風14号。この地でも長時間、暴風雨が吹き荒れ、線路がちぎれたりうねったり、甚大な被害を受けました。被害総額はおよそ26億円にものぼり、高千穂鉄道は廃線を余儀なくされてしまいます。
ですが、復活を望む人たちが立ち上がり、「高千穂あまてらす鉄道」が発足。高千穂駅舎やレールの整備・保全を進め、最初は社長をはじめ、スタッフや集まった有志たちが木製トロッコを手で押して、駅構内を往復するところから息を吹き返したのだそう。
2012年には、軽トラックを改造したオリジナル車両「スーパーカート」が運行を開始。そして、現在のバイオディーゼル燃料で動く60人乗りの「グランドスーパーカート」へとつながっていきます。
廃線から立ち上がり、今では毎日たくさんの乗客を乗せて、高千穂駅と高千穂鉄橋間を10便ほど運行。自然豊かな神話の里の絶景が多くの人を楽しませています。
レトロでどこか懐かしい絶景の鉄道旅
「高千穂あまてらす鉄道」はかつての高千穂駅舎を活用した高千穂駅から発着します。
オープントップで開放感抜群の車両「グランドスーパーカート」は、遊園地のアトラクションさながらのかわいさ。駅員さんの手で切符にハサミを入れてもらうレトロなスタイルで、カートに乗り込み、いざ、30分ほどの鉄道旅に出発します。
まず、美しい棚田や住宅地の間をぐんぐん進んでいきます。
次に見えてくるのは、こんな緑のトンネル。ジブリの世界に吸い込まれるようでワクワク!
トンネルに入ると、天井がカラフルなイルミネーションで照らされる演出も。まるで万華鏡のようにキラキラと輝き、このままどこかへタイムスリップしてしまいそうなパフォーマンスに心が踊ります。
そして、トンネルを抜けた先にも緑のトンネルが。森の中を探検しているような気分で童心に返ってしまいます。オープントップならではの開放感ですね。
かつての姿のまま残る天岩戸(あまのいわと)駅を通過し、いよいよ高さ約105メートルの日本一高い鉄橋「高千穂鉄橋」へ。
鉄橋に出ると、周囲の山々には棚田が広がり、はるか下には五ヶ瀬川が流れ、日本一という高さを実感します。
鉄橋上でしばらく停車するので、ゆっくりと景色を堪能したり、写真を撮ったり……。360度遮るものは何もなく、開放感抜群! 五感で絶景を感じることができます。この景色をたった60人(最大乗車人数)で独占できるなんて、ぜいたくすぎる体験です。
また、取材したこの日はくもり空でしたが、それも神話の里らしい幻想的な雰囲気が漂っていました。
そして、記念撮影をしているうちに、一面がシャボン玉でいっぱいに! 運転士さんがシャボン玉を吹く粋な演出をしてくれます。
ふわふわと揺れるシャボン玉に、一面の緑、草を食む牛の姿。目の前に広がるのは童話の世界そのものです。
さて、日本一高い鉄橋を堪能したら、橋上で折り返し、復路の旅路を楽しみましょう。
途中には「荒立(あらたて)神社」の鳥居も見えます。歌や舞、芸能の神である天鈿女命(あまのうずめのみこと)をまつっていることから、芸能人も多く訪れるのだそう。また、人気アニメ『【推しの子】』に登場するため聖地にもなっています。
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高千穂駅に到着し、レトロな絶景鉄道旅もおしまい。
すばらしい景色が主役であることはもちろんですが、線路沿いの住宅からは住民の方が笑顔で手を振ってくれたり、学校帰りの小学生たちがトロッコに向かって元気よく手を振ってくれたり……。のどかな町に多くの観光客がやってくることを歓迎してくれる地元の皆さんの温もりにも、ぐっと来るものがあります。
鉄道好きにはたまらない! 本物の車両の運転体験も
グランドスーパーカートの旅だけでなく、高千穂駅ではなんと、旧高千穂鉄道で活躍した本物のディーゼルカー「TR-202」の運転も体験できるんです!
2005年に廃線となるまで、延岡から高千穂までの約50キロメートルを走っていたこの車両。車内には座席なども残されています。制服の貸し出しもあるので、制服・制帽に身を包んで運転席に座れば、気分は本物の運転士!
この体験では、運転士の指導のもと、高千穂駅構内の往復約700メートルを運転できます。鉄道ファンならぜひ、本物の車両を運転するという夢をかなえてみてはいかがでしょうか。
- 料金
- 20,000円/人
2カ月に1回の定期開催時は15,000円/人 - 参加条件
- 普通自動車免許、または自動二輪(原付を含む)免許を持つ20歳以上
旅の記念に! 高千穂あまてらす鉄道オリジナルグッズ
駅舎内ではオリジナルグッズが販売されています。クリアファイル、トートバッグ、タオル、ポストカード、ピンバッヂなど、日常使いできそうなものがたくさん。
グッズ売り場には記念スタンプコーナーもあるので、旅の思い出に押してみては。
人情味あふれるハートウォーミングな「高千穂あまてらす鉄道」の旅路は、まさにこの鉄道のキャッチコピーである「なつかしい未来へようこそ」を実感できます。
ほかにも、神話にまつわるパワースポットを巡ったり、遊歩道を歩いて高千穂峡を散策したり、ボートに乗って真名井の滝を下から見上げたり、美しい棚田が織りなす景色を眺めたりと、さまざまな体験ができる高千穂。ぜひ一度訪れてみませんか。
高千穂あまてらす鉄道
- 時間
- [運行時刻]9:40~15:40発(1日10便)、冬季は10:20~15:40発
[受付時間]9:25~15:25
第3木曜日定休(祝日・GW・夏休みは営業) - 乗車料金
- 大人2,000円、小中学生 1,300円、未就学児 700円(事前予約不可)
- 住所
- 宮崎県西臼杵郡高千穂町大字三田井1425-1
- アクセス
- 「高千穂バスセンター」より徒歩10分
- 詳細
- 高千穂あまてらす鉄道
▼高千穂の観光情報
取材・撮影・文/其田雪花、楽天トラベルガイド編集部