
提供:ことりっぷ
中国、韓国、日本の陶磁器を中心に収蔵する「大阪市立東洋陶磁美術館」。というと、専門的で難しそうなミュージアムというイメージかもしれませんが、2024年のリニューアルオープンを機にガラス張りのエントランスホールとカフェ、ショップが新しく設けられ、心地よい時を過ごせる空間へと変化をとげました。
街とアートが響き合い、より身近になった陶磁器の魅力を発見してみませんか?
ロケーションとともに至宝を愛でる中之島のミュージアム
向かって左のガラス張りの部分がリニューアルで新しく増設された
「大阪市立東洋陶磁美術館(以下MOCO)」へは、京阪なにわ橋駅からすぐ。大阪メトロ淀屋橋駅や北浜駅からでも10分程度の距離です。堂島川と土佐堀川の間に位置する中之島は、美術館や図書館、レトロ建築が集中し、春にはバラの花が街を彩る憩いの場としても親しまれています。
その都市公園の一角にある、素焼きのタイルに覆われた赤茶色の建物がミュージアムです。エントランスホールのやわらかなカーブを描くコンクリートの階段に導かれて展示室のある2階へと向かいましょう。
館内からは、大正時代のレトロ建築・大阪市中央公会堂の堂々とした姿が見える
まずは、MOCOが誇る二大国宝を鑑賞
国宝 飛青磁花生(大阪市立東洋陶磁美術館/住友グループ寄贈/安宅コレクション)
MOCOでは2つの国宝を収蔵しています。ひとつは、14世紀の中国で作られた飛青磁花生(とびせいじはないけ)です。緑と青が合わさったような深い色合い、つややかな質感、ふっくらとした形、舞い上がる蝶のような鉄斑。
シンプルで非の打ちどころがない花器ですが、細くなった首の部分にあるハート形の鉄斑は、チャームポイントとして親しまれているそうです。また、展覧会によっては、自然採光展示室の自然光の下で、鑑賞できることもあります。
国宝 油滴天目茶碗(大阪市立東洋陶磁美術館/住友グループ寄贈/安宅コレクション)
もうひとつの国宝は、12~13世紀に中国で作られた茶器「油滴天目茶碗(ゆてきてんもくちゃわん)」。水に浮かぶ油のしずくのように、金・銀・紺の斑点が輝いています。
MOCOでは、漆黒の器に輝く瑠璃色の光がはっきりと見えるよう照明を工夫。さらに、この器、豊臣秀吉の甥に当たる関白豊臣秀次が所有していたこともあるという、歴史的にも価値があるものといわれています。
じっくりと鑑賞できる工夫が盛りだくさん
じっくりと作品を見ることができるひじ置き台
照明や採光だけでなく、展示室には鑑賞するための心遣いが至れり尽くせり。たとえば、展示ケースの前にある木製のカウンターはひじ置き台。ここにひじを置くと、目線が作品と同じ高さになるので、細部までつぶさに見えます。
加彩婦女俑(大阪市立東洋陶磁美術館/住友グループ寄贈/安宅コレクション)
死後の生活が現世と同じく続くようにと、墓に埋葬されていたという女性の俑[人形(ひとがた)]は、回転する台にのせられており、360°全方位からその姿を鑑賞できます。
もちろん、お気に入りの作品があればスマホで撮影をしたり、言葉で残しておきたい感動をメモしたりするのもOK。SNSにアップする際、役立ちそうですね。
後ろ姿も美しい別名「MOCOのヴィーナス」
ミュージアムカフェ「café KITONARI」でアートなスイーツを
四季折々の風景も楽しめる眺望のよいカフェ
大阪市中央公会堂を望む「café KITONARI(キトナリ)」は、全面ガラス張りの開放的なカフェ。作品の色や形、柄をモチーフにしたドリンクやスイーツが話題です。
「紫紅釉盆」1,000円と「飛青磁花生」900円
緑のドリンクは、MOCOが誇る国宝の「飛青磁花生」をオマージュしたもの。ぷっくりとしたグラスにチョコレートで鉄斑文様をペイントした抹茶ラテです。文様はカフェのスタッフがひとつずつ手書きしており、かわいいハートの斑文も再現されているのが芸の細かいところ。
紫のグラデーションが美しいバタフライピーティーのジュースも、「紫紅釉盆」という作品がモチーフになっています。
「木葉天目」900円。ゴールドが輝く贅沢なスイーツ
本物の木の葉を焼き付けた「木葉天目」と呼ばれる作品からイメージして生まれたのが、こちらのスポンジに濃厚チョコレートムースを重ねた光沢のあるケーキ。
木の葉の葉脈まではっきりと読み取ることができる作品の繊細さを、ムースに金粉を散らし、桑の葉の形に抜いた金箔を施すことで見事に表現しています。
重要文化財 木葉天目茶碗(大阪市立東洋陶磁美術館/住友グループ寄贈/安宅コレクション)
ミュージアムショップで、お気に入りのグッズをおみやげに
イラスト化された収蔵品10点と文様がかわいらしい「ポケットサーモボトル130ml」各2,100円
陶磁器の面白さをあらゆる角度から追求するMOCOでは、絵ハガキや作品モチーフのオリジナルグッズをミュージアムショップで販売。美術館を後にする前に、その日一番心に残ったコレクションのグッズを探してみましょう。
館内ショップ限定の干菓子「和三宝」1,100円
MOCOでは、日曜日にボランティアガイドによる予約不要のツアーもあり、学びのあるガイドトークも楽しめます。また陶磁器にほどこされた意匠は、今の感覚で見ても愛らしいと思えるものばかり。美術品というよりも、デザインの宝庫として見ると、陶磁器がより身近に感じられそうですね。
※展示作品は展覧会によって異なります。最新のカフェメニューはホームページをご確認ください。
文:戸塚江里子(らくたび) 撮影:道海史佳