福島市の西部に位置する「土湯温泉」は、吾妻山のふところ、清流荒川のたもとに佇む山あいの温泉街。その昔、大穴貴命(オオナムチノミコト)が川のほとりを鉾で突いたところ、こんこんと湯が沸いたことから「突き湯」と呼ばれ、それが転じて「土湯」と呼ばれるようになったという伝説*があります。また、土湯こけしの発祥の地でもあることから、町のあちこちでこけしを見ることができます。
*諸説あります。
山水荘はそんな土湯温泉で1950年に創業した温泉旅館です。立派な門構えのエントランスを抜けると、瀟洒(しょうしゃ)な日本庭園が来訪者をもてなしてくれます。若旦那を務めるのは、渡邉利生さん。「もともとこのあたりは宿場町で、湯治宿として祖父が創業したのが山水荘のはじまりなんです」と話してくれました。
山水荘の温泉は、毎分230Lという豊富な湯量を誇ります。泉質はとにかくなめらかで、保湿性のある湯として女性にも人気なのだそう。展望大浴場や露天風呂では、目前に広がるダイナミックな二段の滝がお出迎え。カラダを目いっぱい伸ばしたくなるような解放感を味わいながら、四季折々の表情がつくり出す景観が堪能できるのです。
女将の渡邉いづみさんは、そうした自然との調和に加えて、山水荘にはもうひとつ特徴があると話してくれました。それは「お水」です。「館内の水はすべて当館から1時間半のところにある、吾妻連峰の山奥から引いた伏流水をつかっているのです」。この伏流水はすっきりとした軟水で、繊細な味付けと出汁が特徴の和食にぴったりあうのだそうです。
山水荘の料理長を務めるのは、この道45年の斎藤清治さん。信条とするのは「お客様に感動を与え、喜んでいただける料理を出すこと」。福島牛のすきやきは、まさにそんな斎藤さんならではのアレンジが光る料理で、割り下には自家製の味噌を独自の比率で溶け込ませているのだとか。「味噌が入ることで、福島牛がさらにやわらかくなり旨みも増すんです」。
味噌によってさらに旨みを増した福島牛のすきやきは、まさに絶品。そのほかにも、イケスから引き上げたばかりのイワナをつかった料理や、福島県産丸なすのフカヒレときのこのあんかけ仕立てなど、食材から厳選して調理された料理がずらり。そのいずれにも、吾妻連峰の伏流水が活きているのは言うまでもありません。食後は山水荘自慢の露天風呂にたっぷりと漬かって滝を眺めれば…身も心も解放され日々の疲れが吹き飛ぶことでしょう。