小浜の里山と里海の体験を贅沢に楽しむ
福井県小浜市
古くは朝廷に海産物を献上する「御食国」(みけつくに)として知られ、優れた寺社仏閣も多い福井県小浜市。その小浜市の中山間地にある松永地区では、五感を整え、自分自身を見つめるマインドフルネスな新しい旅の体験プログラム「松永六感」を地区全体で体感できます。その中心をなすのが、松永地区唯一の全5室の小さな旅館「松永六感 藤屋」。多忙な日々の中で曇りがちな心の五感を研ぎ澄ましながら、六感を感じるひと時を過ごしましょう。山里を楽しんだ後は、小浜の海の観光を楽しみます。山と海に囲まれた豊かな自然の中で、小浜市の新たな魅力を再発見。
近場の魅力再発見
松永地区の大きな魅力のひとつは、山里の静謐な雰囲気。小浜は京都へと続く食の道「鯖街道」の起点としても知られていますが、街道沿いに少し山間に入ると、春は緑豊かな新緑、秋は紅葉と四季折々の景観が楽しめます。松永地区には、福井県唯一の国宝建造物「明通寺」があり、国宝の本堂で瞑想体験をすることができます。また、老舗のお酢醸造所の見学や、家具工房での木工体験、野菜の収穫体験など、この地域ならではの癒しの体験をすることができます。さらに、少し足を延ばせば若狭湾に面して漁村が点在していて海の体験も楽しめ、里山と里海が混在する旅ができるのも大きな魅力です。
旅のはじめは、老舗酢屋の見学で体を整えてとば屋酢店(酢作り見学)
松永地区の入口にあるのは、1710年創業、江戸時代から無添加の米酢を作り続けている老舗のお酢醸造所「とば屋酢店」です。誰もが健康を意識する昨今、お酢の素晴らしさも見直されてきて、調味料のほか、飲むお酢も人気です。建物の近くに来るとお酢の香りが漂います。代々受け継がれた製法で作られるお酢は、酸味に深みと旨味を兼ね備えています。「とば屋酢店」ではお酢を作る現場の見学ができ、代々変わらない製法など、お酢を作る現場を見学してみましょう。
説明するのは十三代目の中野貴之さん。「作っている現場を見てもらい、私たちの想いを伝えることで、お酢への想いも変わってくださるとうれしいですね」と中野さん。お酢の発酵は、もみ殻に埋まった大きな壺で行われます。1つの壺に入る量は、なんと180リットル! それが30壺も並びます。約2カ月の発酵、約1~2カ月の熟成を経て、製品になります。
古代アステカ時代の甘味料、百年の蜜マゲイシロップと看板商品である壺之酢をブレンドした飲む酢 百年のお酢蜜(1本1,404円)は、密やりんご、ぶどう、みかん、すだちの5種類のフルーティーな味があります。冷水やソーダで割ってジュース感覚で飲めるので、幅広い年齢層に好評。毎日の習慣にもできそうです。試飲もOK。伝統のお酢作りをベースに作るフルーツビネガーは、若い人たちからも飲みやすいと人気があり、この地域の新しい商品として広がってきています。
体験ポイント
「とば屋酢店」が300年以上前からあるように、お酢は昔から広く親しまれていた調味料です。近年、早くて量産可能な機械による全面発酵法が主流ですが、ここでは日本古来の自然な醸造法、静置発酵法を守っています。大きな壺の中でゆっくり発酵、熟成していく昔ながらのお酢作りを見学し、独特の香りと味を体感することで体全体をスッキリさせましょう。
施設概要
住所 | 福井県小浜市東市場34-6-2 |
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営業時間 | 8:30~18:00 |
定休日 | 日曜、祝日 |
緑豊かな松永地区へ。
子どものころの木工体験に想いを馳せて栗本家具工房(木工体験)
「とば屋酢店」から車で約5分。宿にチェックインする前に「栗本家具工房」で木工体験を。木造の分校跡を利用した建物は味わい深く周囲に溶け込むように建っています。オーダーメイド家具を作っているオーナーの栗本泰佑さんは、縁あって松永地区に居を構えたそうです。
体験できるのは桜やクルミの木を使ったトレイ作り。作り方は彫っていくのみですが、力の入れ具合で様々な形に。自分なりのデザインを考えながら丁寧に、彫っていきましょう。ザク、ザク、ザク‥、小さな木の板に向き合い、いつの間にかトレイ作りに集中‥。
彫った後はクルミオイルを塗り、染み込ませれば完成。所要時間は約1時間。何となく表情がある、味わい深い仕上がりは自分だけのオリジナル。小物やアクセサリーを置いてよし、スイーツ皿にもよし。使い方は自由です。栗本さん曰く「木には適度な油分は必要なので炒め物などで、どんどん使ってください。使っていくうちに味わい深くなりますよ」。
体験ポイント
何の模様もない板の表面をノミで彫っていくだけで、少しずつ板に表情が表れてくるから不思議です。彫り進めては、全体を見て、もう少し彫る…。良いモノを作るという感覚ではなく、自分らしいモノ作りが体験できます。そして、作りあげたモノを日々の暮らしに取り入れるとより豊かな毎日になります。地元の素材を活かしたあまりまだ知られていない体験施設です。
施設概要
住所 | 福井県小浜市門前12-10-2 |
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交通 | JR新平野駅から車で約8分 |
営業時間 | 9:00~17:00 |
定休日 | 不定休 |
料金 | 木工体験3,000円 (定員6名/最低催行人数2名) |
自然と精進料理。五感を研ぎ澄まし自分の感性を啓く松永六感 藤屋(宿泊)
「栗本家具工房」からは徒歩圏内。周囲を林に囲まれひっそりとたたずむのが「松永六感 藤屋(まつながろっかん ふじや)」です。「忙しい毎日を少しだけ離れて自然の音や風を感じていただきたい。そして料理や体験、歴史や文化を通じて自分と向き合い、五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)を整えてください」とはマネージャーの小堂さん。そう、六感とは、五感を研ぎ澄ませた先にあるもの。自然の中で自分と向き合い、マインドフルネス体験ができる「松永六感」の核となる宿がここです。周囲の山々に溶けこんだ風情ある建物。人里集落から少し離れ、心落ち着く環境です。館内からは豊かな自然を眺めることができます。
玄関を入るとすぐに目に入るのが囲炉裏です。囲炉裏のあるラウンジ「醒ケ井山房」には宿のコンセプトに沿った様々な哲学書が揃えられています。絵本から仏教書まで眺めるだけでも興味深いコーナー。「自分を啓く(ひらく)」1冊に出会えるかもしれません。本はお部屋へもっていくこともできますが、ラウンジはもちろん、薪ストーブ前でのんびり読み耽るのもいいです。
趣向の異なる5つの部屋は藤屋周辺に咲く四季折々の花木の名前がつけられています。和洋室の「満作」など、どの部屋からも庭を愛でられ、夜にはライトアップされ幻想的な雰囲気に。程よい距離感を保ってもらえるサービスと自然の音を感じながらの静寂な空間。ゆったりと流れゆく時間の豊かさを感じられます。写真は、宿唯一の離れ「山桜(定員4名)」。木々が近く風景が美しいと人気のお部屋。
夕食の前には、藤屋の自家農園での農園散策が楽しめます。宿の前に広がる農園では、年間200種類を超える野菜やハーブなどが栽培されていて、宿での料理にも使われています。その農園を、野菜ソムリエの板持富夫さんが案内してくれます。見慣れたハーブや野菜がある一方で、珍しい種類もたくさん。
農園散策後は、京都とニューヨークを拠点に食の魅力を発信するカリナリーディレクターとして活躍する中東篤志氏が監修する創作精進料理の夕食。その土地の旬の食材や伝統食を、その時期にその土地で食べるのが体によいとされている「身土不二」。福井出身の石塚左玄氏が提唱し広まった言葉そのままの、自家栽培や近隣農家からの野菜、ここでしか味わえない滋味あふれる精進料理のコースメニューです。メインは「今日の畑」。農園散策で見た野菜で彩られています。その一品一品がゆっくりと体に染みわたり、体を整えてくれます。
「ここでは風景も料理も、季節毎に変わる素晴らしさと楽しさがあります。自然の中で自分を顧みて、リフレッシュしていただけると思います」とご自身も地元小浜生まれの小堂さん。地元に何か貢献したいと「松永六感」にも携わり「松永六感 藤屋」のリニューアル時から参画。穏やかな語り口に心が和みます。
体験ポイント
藤屋の部屋にはテレビがありません。だからこそ自然の音に耳を傾け、それに包まれながら過ごしてみましょう。お部屋からの景色やラウンジ、囲炉裏、薪ストーブ前など、お気に入りの場所で自分に向き合い、考えを巡らせるひと時はいつになく新鮮なはずです。山間に生まれた、この土地の新しい滞在地として、いま注目されています。
施設概要
住所 | 福井県小浜市門前9-4 |
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交通 | 舞鶴若狭自動車道小浜ICから車で約10分、JR新平野駅から車で約8分 |
チェックイン | 15:00 |
チェックアウト | 10:00 |
料金 | 瞑想体験付き・精進8品ディナーコース&1泊朝食付 1名21,000円~ |
清々しい早朝、
静けさの中で心身を癒し、
清める国宝 明通寺(朝食・瞑想)
「松永六感 藤屋」の瞑想体験付き・精進8品ディナーコース&1泊朝食付には、翌朝、国宝「明通寺(みょうつうじ)」での瞑想と朝食がセットになっています。昨晩は体にも優しい精進料理をいただき、気持ちよく就寝。すっきり目覚めたところで、早朝7時前、国宝 明通寺の瞑想に向かいます。藤屋から明通寺までは徒歩10分。車でも良いですが、朝の清々しさや季節の空気を感じながらの徒歩がおすすめです。
副住職 中嶌一心さんによる阿字観瞑想の説明があります。何を思い、何を感じながら瞑想するかを教えていただきます。「普段使っている五感はかなり鈍っています。阿字観瞑想は鈍った五感を研ぎ澄ますと同時に、余計な情報からも解き放たれるひと時です。日常生活を見直す良いきっかけになるでしょう。」と中嶌副住職。瞑想の知識がなくとも手や足の組み方などから教えてもらえます。
瞑想は20分。シーンと静まり返った本堂はどこか別の世界、あるいは自然に包み込まれているような、時間の概念もなくなっていくような、不思議な感覚です。聞こえるのは風や鳥、川の流れの音だけ…。いかに日常がいろんな音に溢れ、騒々しいのかに気づかせてくれます。
本堂での瞑想が終わったら、境内のお庭が美しい客間で朝食をいただきます。地元産コシヒカリで作られた白粥に精進料理。白粥に合う濃淡いろいろな味わいが揃っています。朝食も「松永六感 藤屋」が調理。お仕度は中嶌副住職自らがしてくださいます。味噌汁は、ほんのりと甘い白味噌仕立て。温かさが体にしみわたります。
体験ポイント
日常生活の中で聴く音は、考えてみれば人工的な音がほとんどの状況かもしれません。阿字観瞑想では、それらの音が皆無。あるのは風の吹く音や川の流れ、鳥の鳴き声など自然の音だけです。聞きなれた音が無い不安よりも、静けさの中で聞く自然の音に、気持ちも研ぎ澄まされていきます。
施設概要
住所 | 福井県小浜市門前5-21 |
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交通 | 舞鶴若狭自動車道小浜ICから車で約10分、JR新平野駅から車で約8分 |
拝観時間 | 9:00~17:00 (※冬季12月~2月は16:30まで) |
定休日 | 無休 |
拝観料 | 大人500円、中高大460円、小学生250円 |
古代より和食文化を支えてきた御食国若狭で、食の歴史と文化を学ぶ御食国若狭おばま食文化館 (箸研ぎ体験)
小浜市は、2000年に「食のまちづくり」を開始し、翌年には全国初の食をテーマにした条例「小浜市食のまちづくり条例」を制定。2003年には「食のまちづくり」の拠点施設となる御食国若狭おばま食文化館(みけつくにわかさおばましょくぶんかかん)を開館しました。館内には、食にまつわる資料や情報の展示をはじめ、キッチンスタジオ、箸の研ぎ出しなどができる体験工房があります。
小浜に伝わる食の歴史・文化をはじめ、御食国や鯖街道、ユネスコ無形文化遺産「和食」など、食に関する様々な資料や情報を展示、紹介しています。中でも注目したいのは600点以上のも料理レプリカや写真です。
日本各地の食文化の特徴を色濃く表現する「全国のお雑煮」は圧巻で、多くの来館者がこのブースで故郷の話に花を咲かせています。
食文化館2階の若狭工房では、小浜市の伝統的な工芸体験ができます。例えば、和食に欠かせないアイテムといえば箸ですが、小浜市は塗箸の全国の約8割を生産している全国屈指の産地です。小浜の伝統的な箸「若狭塗箸」の特徴はキラキラと光る模様ですが、その原料は卵の殻やアワビです。うるしを何層にも塗り重ねた箸をヤスリで研いでいくと少しずつ模様が浮き出てきます。
箸の研ぎ出しを指導してくださるのは若狭塗(漆器)の職人、青野英夫さん。他の体験も含めて、ここでは伝統工芸に携わる職人さんたちが丁寧に教えてくれるので、いろいろな話や質問をしながら体験することができます。また、箸の研ぎ出し以外にも色紙漉きやはがき漉き、めのうみがき、食品サンプル作りなどの体験ができます。
体験ポイント
普段、何気なく食べている食事にも、当然ながら歴史や文化があります。そのことがこの館内で、いろいろな視点で紹介されていてどこを見ても楽しめます。食文化を知ることで、これからの食事や料理にも変化が出てきそうです。若狭工房での和紙や箸研ぎ体験は9名までなら当日受付OK。気軽に挑戦してみて。小浜の食をあらためて知る、このことが近場の旅を通して、地元の良さを新たに知るきっかけとなるはずです。
施設概要
住所 | 福井県小浜市川崎3-4 |
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交通 | 舞鶴若狭自動車道小浜ICから車で約6分、JR小浜駅から車で約5分 |
開館時間 | 9:00~18:00(3~10月)、9:00~17:00(11~2月) |
休館日 | 水曜(祝日の場合は開館)、年末年始 |
料金 | 箸の研ぎ出し(所要約40分)1人1,000円 |
小浜の豊かな食卓が見える郷土料理を味わうお食事処 御食国若狭おばま 濱の四季(郷土料理ランチ)
食文化を学んだ後は早速、実践! 郷土料理を味わいましょう。御食国若狭おばま 濱の四季では、郷土料理に加え、地域のお母さんたちが家庭で作ってきた味、お総菜も揃っています。店内片側の全面窓の向こうに空と海を見ながら、ゆったりとしたランチを楽しみましょう。
「海を見ながらの食事と、素朴な小浜の町を散策しながら、ゆっくりと過ごしてほしいですね」と店長の西本一郎さん。開店して早17年、当初からスタッフは地元の人で、地元の味が楽しめると県内外からの常連客も多いようです。
一番人気は、鯖街道御膳デラックス2,300円。鯖街道にふさわしく3品の鯖料理(醤油干し、竜田揚げ、へしこ)に、小浜よっぱらい鯖のお刺身が付く、まさにデラックスメニュー! 小鉢はお母さんたち手作りのお惣菜で、日替わりで2種類付きます。鯛そうめんと季節の混ぜご飯定食1,100円もおすすめです。鯛そうめんは、地元ではハレの日のご馳走として知られ、小鯛が丸ごと一尾ど~んとのっているので写真映え、インスタアップ必須です。混ぜご飯には季節の食材を使用。写真は秋のさつまいもご飯です。
体験ポイント
「小浜よっぱらい鯖」は約5年前、小浜で養殖が始まった地元ブランド鯖で、酒粕をエサに育ちます。鯖特有の臭みがなく、ほどよい脂の乗りが特徴で、肉厚の刺身はいくらでも食べられそうな、ここでしか味わえない逸品です。全国的にも知られている名物の鯖をバラエティに富んだ料理で味わえるのはこのお店ならではです。
施設概要
住所 | 福井県小浜市川崎3-5 |
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交通 | 舞鶴若狭自動車道小浜ICから車で約6分、JR小浜駅から車で約5分 |
体験時間 | 11:00~14:30(14時ラストオーダー) |
定休日 | 水曜(祝日の場合は営業)、年末年始 |
独特な匂いと奥深く濃厚な旨みは、先人たちが愛し続けてきた郷土の味佐助(へしこ・なれずし見学)
ランチでも味わった鯖の「へしこ」は、鯖を塩と米ぬか、唐辛子だけで1年以上熟成発酵させた保存食で、かつては各家庭で作られていました。ご飯にはもちろん、酒の肴にもぴったりで、最近ではパスタやサラダ、チャーハンなど幅広いメニューに使われています。旅の最後は、漁村エリアに足を延ばして、「へしこ」と「なれずし」が作られる現場を見学に民宿佐助さんへ。独特の匂いを放つ「へしこ」と、「へしこ」をさらに発酵させてつくられる「なれずし」のことをお聞きできます。
長年の経験と勘でへしことなれずしを作り上げるのは佐助の主人、森下佐助さん。御食国若狭おばま食文化館が認定する食の達人でもあります。見学前にはお手製の紙芝居で、へしこの歴史や作り方をわかりやすく教えてくれます。「へしことなれずし作りのポイントは、塩分と重み」と森下さん。
鯖のなれずしは、へしこにご飯と麹をつめて発酵させたもので、独特な甘みも特徴の一つです。未来に残したい味、スローフードとして食の世界遺産「味の箱舟」にも認定されています。
佐助は、小浜よっぱらい鯖が養殖されている田烏地区にあります。湾内は棚田や静かな海が美しく、いつまでも見飽きない風景です。
体験ポイント
へしこが漬けてある通称、押し物小屋にはいくつもの樽が並び、独特の匂いに包まれています。見学時には樽の中も見せていただけて、少しだけ味見もできるかもしれません。ほんの少しの中に、濃くて深い味わいが詰まっています。へしこ1本1,600円、なれずし1本2,300円。「へしこ」の製法を知ることで、地元の食への新たな関心に繋がっていきます。
施設概要
住所 | 福井県小浜市田烏36-47 |
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交通 | 舞鶴若狭自動車道小浜ICから車で約20分 |
定休日 | なし |