古都を巡る美食旅がかなう。奈良公園に誕生したオーベルジュ「VILLA COMMUNICO」で極上の薪火料理を堪能
築およそ80年の古民家を再生した全5室のオーベルジュ「VILLA COMMUNICO(ヴィラ コムニコ)」が、奈良公園内という絶好のロケーションに2024年9月にオープン。
ミシュラン1つ星を獲得したリストランテ「communico(コムニコ)」のシェフが手掛ける、薪火料理のガストロノミー・オーベルジュです。香りや音など五感で味わう薪火料理は、奈良の豊かな自然が育んだ食材の味を最大限に引き出します。
古都の風情あふれる空間で、大人の奈良旅を満喫した1泊2日の宿泊体験記をご紹介します。
奈良公園内の好ロケーションに立つ美食の宿「VILLA COMMUNICO」
奈良公園内、若草山の麓にある「VILLA COMMUNICO」。徒歩圏内に、奈良の大仏で知られる「東大寺」、阿修羅像が安置されている「興福寺」、漆塗りの社殿が美しい「春日大社」など、数多くの観光スポットが。
ホテルまでは近鉄奈良駅から車で約7分の距離ですが、奈良公園を散策しながら向かうのもおすすめ。歴史と自然が調和した美しい風景を眺めながら観光を楽しめます。
また、ホテル目の前に広がる「若草山」は、丘が3つ重なっている様子から「三笠山」とも呼ばれます。標高342メートルの低山で、山麓ゲートから山頂までは30~40分ほどとプチトレッキングに最適。山頂からは奈良盆地の絶景が望めます。
築およそ80年の古民家を再建したオーベルジュ
のんびり観光しながら、東大寺方面から若草山を左手に通りを進むとホテルに到着。
昭和20年代に建てられた古民家を改修した建物は、味わいのある佇まい。当時の面影を残し、歴史と風情が感じられる外観で、町並みに溶け込んでいます。
のれんをくぐるとモダンな空間が広がり、外観とのギャップに驚かされます。また、コンパクトな外観からは想像もつかない奥行きがあり、アーチを設けた洞窟のような造りに胸が高鳴ります。
吹き抜け部分にあるシャンデリアは、奈良に春の訪れを告げる伝統行事、東大寺二月堂の「お水取り」で使われるたいまつをイメージしたオーダーメイド品。奈良の照明ブランド「ニューライトポタリー」によるものです。
館内にはデザイナーやアーティストによるアート作品が飾られており、奈良の自然や文化を感じることができます。
旧家の意匠が残るラウンジでチェックイン
チェックインは2階のラウンジで。当時の梁や欄間がそのまま残され、柔らかな照明が灯り、大正・昭和初期を感じさせる趣のある大広間です。
大きな窓からは若草山を一望。春は桜、秋は紅葉と、四季折々の風景を楽しめます。
季節に合わせたウェルカムドリンクとスイーツをいただきながらチェックイン。この日は紅茶とシェフ特製の三笠焼き(どら焼き)。
もちもちの生地の甘みと、薪火でスモークしたクリームのほのかな香ばしさ。三笠山を眺めながらいただく、奥深い味わいの三笠焼きは格別でした。
このラウンジは22:00まで自由に利用可能。コーヒーや紅茶のほか、スパークリングワイン、イタリア産ビール、フランス「アランミリア」のブドウジュースなどをフリーで楽しめるので、ドリンクを片手に、刻々と変わる若草山の景色を眺めながら、心が安らぐ時間を過ごせます。
「はじまりの地」で薪火料理を ――シェフの熱い想い
オーナーシェフの堀田大樹(ほりた だいき)さんは、地元・奈良出身。イタリアでの修行やフレンチレストランでの経験を経て、イノベーティブレストラン「communico」を奈良・東生駒にオープン。2022年と2023年の「ミシュランガイド奈良」で1つ星を獲得しています。
そんなレストランをクローズし、オーベルジュを始めたのは、「遠方からのお客様にもゆっくりと食事を楽しんでいただきたい」という想いがきっかけだと話します。なぜ、この場所で薪火料理のオーベルジュをやろうと思ったのか、お話を伺いました。
VILLA COMMUNICOでは、薪火を用いた料理が提供されます。若草山の山焼きや東大寺二月堂のお水取りなど、古来より火との関わりが強いこの土地でオーベルジュを始めるなら、原始的な炎を使って調理する薪火料理こそがふさわしいと考えたのだそう。
オーベルジュをオープンする前に、スペイン・バスク地方のレストラン「チスパ」で薪火料理を学んだシェフ。「薪の火はその日の天気や湿度で変わってくるので、毎日同じように調理しても最終的に違うものが生まれるという一期一会のおもしろさがある」と語ります。
日本最古の都が置かれた奈良は、シルクロードの終着点として、大陸からさまざまなモノや文化がもたらされた日本の食文化のはじまりの地。
日本最古の柑橘とされる大和橘(やまとたちばな)や、醤油のルーツである醤(ひしお)など、奈良にルーツを持つ食材も多く、古代から受け継がれてきた奈良の食材と、薪火という伝統的な調理法が融合し、食の歴史と自然とのつながりを深く感じさせてくれます。
食材は基本的に奈良のものを使い、それ以外のものもできるだけ近い土地のものを選んでいるのだそう。シェフ自ら生産者のもとに足を運び、生産者とのコミュニケーションや土地の風景などからインスピレーションを得て、それを料理で表現することを大切にしていると言います。
料理のコンセプトは、「孫のために、おばあちゃんが2~3日かけて愛情を込めて作るような料理」。「お皿として洗練させながら、根っこの部分に温かみを感じられるような料理を心がけたい」と話します。
その想いもあってか、発酵食にもこだわっているというシェフ。パントリーにはたくさんの瓶が並び、さまざまな食材を発酵・熟成させています。
また、玉ねぎの皮やニンジンのヘタに近い部分など、普段は捨ててしまう食材からだしを取り、朝食に活用しているそう。食材を無駄なく使い切るという昔ながらの大切な食文化を実現できるのは、「夕食から朝食という流れがあるオーベルジュという形だからこそ」と微笑みます。
さらに、器にもこだわり、作家の個展や工房を訪ねて集めているのだとか。棚には、さまざまな表情の器が並び、そのどれもが料理を引き立て、手触りまで楽しませてくれます。
堀田シェフの想いと世界観を落とし込むために、構想から約7年を費やして完成した古民家オーベルジュ。シェフの情熱がホテル全体に息づき、特別な滞在がかなう一軒の誕生につながっていると感じました。
自然界の5大要素をコンセプトにした隠れ家のような客室
VILLA COMMUNICOの客室は全5室。堀田シェフのセンスが反映されたインテリアは、アメリカの画家であるジョージア・オキーフの自宅など、ニューメキシコの建造物がモチーフなのだそう。土や木などの自然素材を多用した、ほっと落ち着く心地よさと温かみが特徴です。
客室名にも自然界の5大要素「火(ignis)」「水(aqua)」「土(solo)」「風(ventus)」「木(lignum)」を用い、室内はそれぞれをイメージしたしつらえになっています。プライベート感あふれる隠れ家のような環境でゆったりと過ごせます。
バルコニーを備えた2階の客室「風(ventus)」
今回宿泊したのは、2階にある客室「風(ventus)」(約35.3平米、定員2名)。独特の凹凸を表現する名栗(なぐり)加工を施した天然木のドアを開けると、バルコニーを備えた開放感のある空間が広がります。
壁や天井は、温かみのあるクリーム色のしっくいで仕上げ、壁には「風」をイメージしたアートが飾られています。
棚には、シェフが集めた料理やデザインに関する書籍が、まるで物語を語るように並べられ、あらゆる場所にシェフのセンスが散りばめられています。
ミニバーには、奈良のクラフトビールや、奈良のスペシャリティコーヒー専門店「ロクメイコーヒー」によるオリジナルブレンドのコーヒー豆とミルを用意。これらもフリーなので、自分の手で挽いてコーヒーを入れたり、ビールで乾杯したり、上質なくつろぎのひとときを気の向くままに楽しめます。
バスルームとパウダールームも、スタイリッシュで高級感たっぷり。脚をしっかり伸ばせる大きなバスタブで、のんびりとバスタイムを満喫できます。
こだわって選ばれたバスアメニティは、デンマーク・コペンハーゲンのライフスタイルブランド「FRAMA(フラマ)」のハーバリウムシリーズ。優しい香りとラグジュアリーな使用感で、心も体もリフレッシュさせてくれます。
洗面台には、美髪に導いてくれると評判の「KINUJO(キヌージョ)」のヘアドライヤーが用意されていました。
ふかふかのバスローブやスリッパ、上下セパレートタイプのナイトウェアも、至福の時間を演出してくれます。
客室「水(aqua)」もバルコニー付き
「風」と同じく2階にある客室「水(aqua)」(約35.6平米、定員2名)も、バルコニー付き。水をイメージしたアートとブルーのラグで、清涼感のある心落ち着く空間に仕立てられています。
木のアートに彩られた客室「木(lignum)」
2階にあるもう1室の「木(lignum)」(約38.3平米、定員2名)は、リビングと寝室が分かれています。
バルコニーはありませんが、木のオブジェが飾られ、庭園の風景を切り取ったような安らぎを演出。バスルームにも同様のアートがあり、鑑賞しながら入浴できます。
1階の「火(ignis)」「土(solo)」は専用庭付き
1階にある「火(ignis)」(約42.3平米、定員3名)と「土(solo)」(約44.7平米、定員3名)は専用庭付き。開放感たっぷりの庭に窓から直接出られます。2階の客室より広々とした造りで、3名で宿泊する場合は、エキストラベッドが追加されます。
薪火料理のディナーコースで奈良の食文化を味わう
陽が落ちて辺りが静かになる頃、今回の滞在のハイライトとなるディナーの時間。ディナーは18:00一斉スタートで、前菜から魚料理、肉料理、デザートまで全11品のコースをいただけます。
コースの始まりは先程のラウンジで。日中とは異なる幻想的なムードの中、アペリティフとアミューズをいただきます。
アペリティフは、シャンパンかノンアルコールから選べ、この日のアミューズは奈良で育った美和馬の馬肉をのせた蕎麦粉のガレットなど、ひと口サイズの料理が3種。どれも繊細な盛りつけと丁寧に作られたことが伝わる味で、これから始まるコースへの期待が膨らみます。
アミューズをいただいた後はレストランへ移動。店内にはオープンキッチンと、その中心に薪火台が。土間にかまどを設ける昔ながらの台所「おくどさん」をイメージしたのだそう。目の前で調理の様子を見られる、臨場感あふれる空間で料理を堪能できます。
テーブルにつき、メニューを開くと、書かれているのは食材だけ。あえて料理名をつけないのは、シェフの「お客さまとのコミュニケーションを大切にしたい」という想いから。ひと皿ごとに食材の産地や調理法など細やかな説明があり、奈良の食文化への理解を深めながら食事を楽しめます。
そして、目の前に登場する料理は、見た目も味も想像をはるかに超えるものばかり。前菜から驚きと感動の連続でした。
コースの内容は、季節の移ろいに合わせて、少しずつグラデーションのように変えていくのだそう。その時期にしか味わえない旬の食材に合わせてメニューが作られるので、まさにその日だけの特別な料理に出合えます。
ドリンクは、奈良のクラフトビールやワイン、日本酒といったアルコールのほか、ノンアルコールもこだわりのラインナップ。ワインのペアリングコースもあり、200本以上あるコレクションから料理に合わせて選んでもらえます。
この日の魚料理は、秋刀魚、マコモダケ、ボッタルガを使ったひと皿。開いて丁寧に骨を取った秋刀魚に、ペースト状にした内臓を詰め、パン粉をまぶして、薪火で油をかけて揚げ焼きのように仕上げています。
カリッと揚げられた秋刀魚と、ボッタルガの塩気、マコモダケの食感が織りなすハーモニーが絶妙。今までに食べたことのない調理法で、秋刀魚の新たなおいしさに出合えました。
続いては、フェンネルで和えた明石の真蛸をトッピングした冷製パスタ。パスタは、日本最古のそうめんといわれる奈良「三輪そうめん」の製法を用い、手延べで作られています。フェンネルの香りが良いアクセントになり、上品な味わいです。
パンも自家製で、奈良の古代米である赤米と黒米が練り込まれています。奈良最古の醤油蔵元「マルト醤油」の生のもろみが香ばしく香るエスプーマにディップしていただきます。
次の温かいパスタは、打ちたての生地で、奈良の金剛山麓の農場で育った「ばあく豚」を包んだアニョロッティ(ラビオリ)。粒の大きな落花生「おおまさり」と、薪でローストしたトリュフをトッピングしています。
白いオクラの花びらが印象的な一品は、低温で軽く火を入れてから薪火で仕上げた鮑。花びらの下には奈良県産の白茄子の薪焼きが隠れています。
肉料理は、60日間熟成した経産淡路牛をシンプルに薪火でローストしたもの。添えられているのは、奈良県産の蓮根。火を入れたものを酒粕に漬け込んで、もう一度焼いてあります。
薪の炎で焼きあげたお肉はとても柔らかく、旨みが最大限に引き出されていて、薪火料理の奥深さを実感しました。
デザートは、シャインマスカットを包んだ吉野葛の葛餅と、奈良県産のイチジクを薪火でローストし、メレンゲや発酵ブルーベリーのジャムなどをトッピングしたものをいただきました。
食後の飲み物は、「ロクメイコーヒー」のオリジナルブレンド、大和橘とアールグレイの紅茶、5種類のミントを使ったハーブティーからチョイス。
さらに、ミニャルディーズが3品。四季橘のパウンドケーキ、明日香村の「のらのわ耕舎」の平飼い卵を使ったプリンなど、最後まで奈良が育んだ食材、食文化をじっくり堪能しました。
ディナーが終わる頃には、外は夜の顔。コースを通して、薪火調理のバリエーションの豊かさに驚かされました。
印象的だったのは、花や葉で彩られたまるでアート作品のような美しさ。堀田シェフは「食材の花や葉を余すことなく使い、花が咲いて種が落ちてという食材のサイクルをひと皿に表現したい」ともおっしゃっていました。
芸術的なビジュアルとともに、食材の生命力を感じさせる、独創的な料理の数々。奈良の旬の食材を薪火で調理した温もりある味わいは、どこか懐かしい故郷の味を彷彿とさせ、心身に深く沁みわたるような心地よさがあります。豊かな時間をゆっくりと堪能した至福の夜でした。
朝食前、観光客が少ない早朝に周辺を散策
翌日、朝食前に周辺を散策することに。日中はにぎわうこのエリアも、朝は穏やかな時間が流れます。朝の若草山は清々しく、鹿たちもリラックス。観光客がほとんどいない中、のんびりと鹿と触れ合えます。
24時間無料で参拝できる東大寺二月堂に行ってみることに。ホテルからゆっくり歩いて約5分で到着。こちらも人はほとんどおらず、静寂に包まれています。
二月堂は京都の清水寺のような舞台造りになっていて、舞台からは奈良の町並みを見渡せます。東大寺大仏殿もすぐ近く。大仏は7:30から拝観できるので、足を延ばしてみるのも良さそうです。
昼間とは違った美しさに出合える朝の散歩。こんな特別な時間を過ごせるのは、この立地に立つ宿に宿泊しているからこそ。心も体も満たされ、朝食がより一層おいしくいただけそうです。
朝食は奈良の郷土料理「茶粥」をメインにした和食膳
散策から戻ったら、朝食をいただきにレストランへ。夜の雰囲気とはガラッと変わり、柔らかな朝日を感じる爽やかな空気に包まれています。
朝食は、奈良の郷土料理「茶粥」をメインにした和食膳。奈良の伝統野菜「大和まな」のお浸し、大和橘の酸味を加えた醤油を使った白身魚とキノコのマリネ、明治2年創業の老舗「森奈良漬店」の奈良漬けやぬか漬けなど、奈良の食材と薪火を使った料理がずらり。
茶粥は、野菜や肉のだしをベースに紅茶で香りを出し、爽やかで深みのある味。自家製パンから作ったクルトンで食感をプラスしたり、おかずをトッピングしたり、自分好みにアレンジしながらいただけます。
鴨肉は、焼き色をつけた後にスモークし、塩麹と一緒に真空パックにして火を入れるという手の込んだ一品。低温調理された鴨肉はとても柔らかく、燻製された香ばしい香りが食欲をそそります。
鹿たちも動き出し、少しずつにぎやかになる通りをガラス窓越しに眺めながら、デザートとコーヒーをいただいてほっと一息。日常では得られないぜいたくな時間でした。
古都奈良の風情あふれる場所にたたずむオーベルジュ「VILLA COMMUNICO」。薪火で調理された奈良の旬の食材を使った料理は、五感を刺激する絶品ばかりで、忘れられない時間を過ごせました。
観光にも便利な立地で歴史と自然が調和し、奈良の魅力を再発見できる、大人のための上質な滞在を体験してみませんか。
VILLA COMMUNICO(ヴィラ コムニコ)
- 住所
- 奈良県奈良市雑司町486-5
- アクセス
- 「近鉄奈良」駅より車で約7分
- 駐車場
- 無料
- チェックイン
- 15:00(最終チェックイン18:00)
- チェックアウト
- 11:00
▼関連記事
撮影:福羅広幸 取材・文:中村由美(グリーンアソシエイツ)