リノベーションした古民家で城下町の暮らしを体験する「NIPPONIA HOTEL 大洲 城下町」
霧が立ち込める肱川(ひじかわ)の上に、うっすらと浮かび上がる大洲城(おおずじょう)。その昔、侍や商人が行き交った城下町には今も変わらず漆喰壁や土蔵の建物が並び、古の時代が確かにあったことを私たちに伝えています。歴史ある家屋の雰囲気を最大限に留め、内装を宿泊用に改装した「NIPPONIA HOTEL 大洲 城下町」。家の玄関だった場所が、そのままお部屋の入口に。「はじめまして」ではなく、「ただいま」と言いたくなる場所です。
城と川が見守り続けている町「大洲」
愛媛県の南部に位置し、江戸時代では藩の中心地であった「大洲」。南北を通る街道沿いのロケーションに加え、海上交易が盛んだったことから「伊予の大阪」と呼ばれた港町もすぐ近くの城下町は、名だたる大名を城主に迎え、発展してきました。
江戸時代より守られてきた櫓(やぐら)は4棟とも国の重要文化財。町を一望できる天守も奇跡的に見つかった史料を基に忠実に復元されたもの。昔も今も変わらず、大洲城は町のシンボルであり、ここに暮らす人たちの誇りなのです。
町に沿うように流れる肱川では、6月から9月にかけて鵜飼(うかい)が開催されます。1300年の歴史を誇る大洲の夏の風物詩で、屋形船に乗りながら間近で漁の様子を見られるほか、船を貸し切って食事も楽しめます。
お部屋案内がまち歩きツアーに
歴史の面影が至るところに存在する大洲。「NIPPONIA HOTEL 大洲 城下町」は、何よりも町の雰囲気を大切にし、今ある建物を活用しているのが特徴です。
かつて邸宅であった外観を残しつつ、お部屋の内装やバスルームは少しだけ現代風に手を加えます。月日の流れに敬意を表しているからこそ、漆喰に刻まれた傷跡は修正せず、かと言ってそのまま放置するのではなく現状のままで保存しているのです。
チェックインは、土間に小上がりの和室といった、まるで商家のような場所で。ここから町中に点在するお部屋へと案内されますが、古い町並みを通りながら向かうので、すでに大洲のガイドツアーに参加しているようです。
さり気なく掲げられた暖簾(のれん)や、表札のようなルームプレートがホテルの目印。居住空間ならではのお部屋の間取りはどこか懐かしい雰囲気が漂い、初めての場所特有の緊張を和らげます。
歴史建築に初めて滞在する方におすすめの「VMGグランド」
「NIPPONIA HOTEL 大洲 城下町」のお部屋は全31室。11カ所に分散し、それは中庭付きの邸宅だったり、重厚感ある土蔵だったり。それぞれの建物には、歴代藩主の名前が付けられています。
例えば、長屋だった建物をリノベーションした「MUNE棟」は、災害から復興しようと藩の財政改革に取り組んだ、四代藩主の加藤泰統(やすむね)が由来。部屋タイプは「VMGグランド」と呼ばれ、約50平米のメゾネットは最大4名まで宿泊可能です。
1階に和室とバスルーム、2階にベッドルームという間取りは共通ですが、しつらえている家具や調度品はお部屋によってさまざま。毎回訪れる度に、新たな発見と出合いがあり、興趣が尽きません。
冷蔵庫に用意されたミネラルウォーター、ペリエ、瓶ビール、ジュースはすべてフリードリンク。隣接する八幡浜市の柑橘農家が手掛けた果汁100%のジュースは2種類あり、湯上がり後や目覚めの一杯にぴったり。飲み比べができるのもうれしいポイントです。
洗練されたアメニティが並ぶ、癒やしのバスルーム
坪庭を望みながら入浴できるバスルームは、お湯を注ぐと一気に檜(ひのき)のかぐわしい香りが立ち、贅沢なひとときを演出。足を伸ばしても十分すぎる広さが残る浴槽に身体を沈めれば、日常の疲れも癒やされます。
アメニティには、シルク産業が盛んな愛媛県発のブランド「SILMORE(シルモア)」のシャンプー・トリートメント・ボディソープ・ボディクリームの4点を用意。国産シルクが配合されていて、肌との相性が良いシルクは保湿力が優れ、しっとり効果も期待できます。
湯上がり後は、お部屋に準備された浴衣に着替えて、町をそぞろ歩き。つややかな黒瓦に栗色の縦格子が並ぶ町中は、浴衣姿がよく似合います。また夕食をいただくレストランへも浴衣で行くことができます。
歴史を感じる以上に楽しむことを目的とした「VMGプレミア」
建物それぞれに独自の歴史が宿る「NIPPONIA HOTEL 大洲 城下町」は、どのお部屋も唯一無二。しかし、「VMGプレミア」という部屋タイプでは蔵を改装したお部屋があり、珍しい宿泊体験ができると注目されています。
強固な扉を開けると、目を引くのが中央に置かれた檜風呂。ガラス窓に仕切られ、従来の間取りとは異なる突飛な配置が斬新的ですが、実はこれにも「NIPPONIA HOTEL 大洲 城下町」らしい理由があります。
既存の建物とその歴史の保存に努めているため、湿気から建物を守るべく、あえて壁から離れた場所に浴室を配置しているのです。
2階は蔵ならではの広々とした空間を活かし、寝室と団らんの間が設けられています。屋根を支える梁や大黒柱は力強く、代々伝わる家宝を守ってきた自負が感じられそうです。
お部屋でひと休みしたら城下町の散策へ
歴史と建物好きにはたまらない「NIPPONIA HOTEL 大洲 城下町」ですが、さらに好奇心をかき立てるのが徒歩圏内で江戸から明治、大正にかけての貴重な建築物を巡れること。
散策の始まりは「大洲城」から。2004年に復元された天守は、明治時代に撮影された写真と、棟梁を務めた中野家で発見された模型をもとに再現。外観と内部の仕組みを把握できたことで、木造による完全復元が可能と判断され、10年の歳月をかけて完成しました。
大洲城は年中無休で見学でき、夜にはライトアップされた優美な姿が町を華やがせます。ここを訪れることで、今も昔も変わらず、大洲の人たちが自分たちの町に息づく歴史や建物を大切にしていることが感じられるのです。
そして、「NIPPONIA HOTEL 大洲 城下町」では、この大洲城に泊まれるプランも用意されています(楽天トラベルでは取り扱いがありません)。単純にお城に泊まるのではなく、江戸時代の城主として、歴史上の人物になりきるという稀有な体験が可能。入城する際は火縄銃による祝砲が響き、神楽が披露されるなど、付加価値のある滞在を叶えてくれます。
時代が生んだ名建築を訪問
お城から城下町へ移動すると、時代にならうように主役の座は町民へ。明治時代に建てられた「おおず赤煉瓦館」は、洋風のレンガ造りに和瓦や鬼瓦など和風を取り入れているのが特徴。木蝋(もくろう)や製糸でにぎわっていた当時の地元経済を支えた銀行の本店でしたが、現在は観光案内所として特産の砥部焼(とべやき)や大洲和紙などのお土産を販売し、地元の魅力を発信しています。
木蝋貿易で成功を収めた河内寅次郎の別荘「臥龍山荘(がりゅうさんそう)」は、当時の勢いを体感できる観光スポット。肱川を望む景勝地に佇み、春夏秋冬をつかさどるお部屋には欄間(らんま)や違い棚など細部まで職人の技巧が施されていると同時に、能舞台としても使用できる大胆な仕掛けも備わっています。
自然に囲まれた臥龍山荘に対し、「盤泉荘(ばんせんそう)」は町を一望するのに絶好のロケーションにあります。大正時代にフィリピンで貿易会社を営んでいた松井傳三郎と國五郎の兄弟が手掛けた別荘で、東南アジアの木材やバルコニーなど和風建築でありながら随所に海外の趣向が凝らされ、それを発見するのが楽しい場所です。
味はもちろん、目でも楽しめる夕食
大洲の名所を巡るツアーもすべて見終わる頃には日も沈み、夕げの支度が町のあちらこちらで始まります。その音や香りに誘われるように町内を通り抜け、ダイニングを目指す自分の姿はまるで家路を急ぐ住民のようです。
格子窓から柔らかな灯りがこぼれる、レストラン「LE UN(ルアン)」。特にこだわったのが眺望で、大きな窓からは何重にも巡る石垣と、その先に君臨する大洲城が望めます。
川に寄り添う大洲は、虹鱒(にじます)や鮎といった川魚に加え、海にも近いことから鯛や鱧(はも)も味わえるなど、魚介が豊富。さらに2カ所でのみ生産が許された愛媛のブランド牛「愛姫牛(あいひめぎゅう)」も、ぜひ味わいたい一品です。
和とフレンチが融合したメニューは創造性豊かで、季節ごとに変わります。その料理を引き立てるのが、白磁に藍色が光る「砥部焼」。愛媛の伝統工芸品に、地元の旬を盛り付けて。フランス語で「1」を意味するレストランは、地域の魅力を一身に集めた場所でもあります。
食後は宿泊者限定のクラブラウンジでくつろぎのひとときを
落ち着いた雰囲気が漂うラウンジには、シャンパンや赤白ワイン、ビールに地元の日本酒、さらにウイスキーと焼酎を完備。飲み物すべてが無料でいただけるのだから驚きです。ご当地ジュースやコーヒー、紅茶も用意されているので、一日に何度も利用したくなります。
早朝散歩で一日を爽やかにスタート
ドリームベッドのほど良い弾力に支えられ、目覚めもすっきりな翌朝。まだ静まり返る大洲の町中を散歩してみると、高さ約12mにもおよぶ灯篭が見えてきます。その脇には「大洲神社」に続く階段も。大洲城の築城に合わせて創建された神社は、代々藩主からも厚く崇敬され、商売繁盛や家内安全にご利益があると言われています。
さらに足を延ばして、肱川の方へ。天気が良ければ水の上を霧が漂う幻想的な光景が見られます。大洲は霧が発生しやすく、特に秋から春にかけては大々的に見られ、その様子から「肱川あらし」と呼ばれているほどです。
自然に囲まれながら貸切舟でいただく、特別な朝食
「NIPPONIA HOTEL 大洲 城下町」では、鵜飼の船で遊覧を楽しみながら朝食をいただく特別プランを実施しています(5~11月で1日3組限定)。約1時間のクルージングで大洲城や臥龍山荘を巡りますが、地上とは異なる角度からの眺めが魅力です。
朝食にはシェフ特製のお弁当が登場。新鮮な魚介を丸ごとすり潰して揚げる「じゃこ天」は、噛むごとに魚の旨みがじんわりと広がる特産品。他にほんのりと脂がのった鰆(さわら)は朝食にぴったりなおかずで、朝から海の幸を満喫できる内容になっています。
手漕ぎならではのゆったりと、しかし一定のリズムを刻みながら進む舟での時間は心地よく、忙しい日々でせっかちになってしまった体内時計をリセットしてくれそうです。
今も昔も変わらず、招客をもてなす朝食会場
通常の朝食は、大洲神社のすぐ横に佇む「TUNE棟」にて。かつては「いづみや」という料亭で、堂々たる門構えからも往年の雄姿がうかがえます。
夕食に引き続き、朝食も地元の食材をふんだんに使った和食が並びます。滋味深いがんもどきのがんも、そして口あたりの柔らかな味噌汁の麦みそは、ともに地元に根付く専門店から調達したもの。自分がまち歩きの際に発見したお店の味を堪能でき、より滞在の思い出が濃くなります。
お遍路など早朝に出発する場合には、朝食をお弁当にして持たせてもらえるのも助かります。
大洲への行き方は松山経由が便利
大洲へのアクセスは、県庁所在地の松山から特急電車で約35分。その際は、観光列車「伊予灘ものがたり」がおすすめです。松山、伊予大洲、八幡浜を巡るルートがあり、「大洲編」は朝8:26に松山駅を出発し、10:28に伊予大洲駅に到着。そのまま観光へと繰り出せるスケジュールです。
どのルートも海沿いを走るので、車窓からは穏やかな伊予灘を一望できます。さらに全国で海に近い駅として有名な「下灘(しもなだ)駅」には停車もするので、ホームに降りて写真を撮ったり、景色を堪能したりと乗車しながらも観光を楽しめます。
2時間ほどの乗車時間ですが、地元の人気シェフによる食事や、頻繁に見かける沿線での歓迎など、到着する頃には、きっとこの地域のファンになっているはず。
町にとけ込み、住民と交流する滞在
お部屋や食事場所が町中に分散しているので、何かとまち歩きをする機会が多い「NIPPONIA HOTEL 大洲 城下町」。ホテルに滞在しているものの、まるで大洲の町そのものに宿泊している気分を味わえるのが、こちらの醍醐味です。今日も午後になれば、帰宅帰りの小学生たちとすれ違い、子どもたちが元気な声で「こんにちは」と、新たな宿泊客を歓迎してくれます。
NIPPONIA HOTEL 大洲 城下町
- 住所
- 愛媛県大洲市大洲378
- チェックイン
- 15:00(最終20:00)
- チェックアウト
- 12:00
- 総部屋数
- 28室
- 駐車場
- あり
取材・写真・文/浅井みら野