上/「クラック!」原画1981年
左/「木を植えた男」1987年
-
画家・イラストレーターとして活躍した後、40代半ばで本格的なアニメーション制作に乗り出したフレデリック・バックさん。その第一作からすべて、自然と人間との関係をテーマとし、作品を通じて人と自然の調和を訴え、文明の行き過ぎに警鐘を鳴らしてきました。一脚のロッキングチェアを通じて、失われつつあるケベックの伝統生活や文化、現代文明への批判をユーモラスに描く『クラック!』(1981年制作)、たった一人で荒野に木を植え続ける男を描いた『木を植えた男』(1987年制作)でアカデミー賞短編アニメーション部門をそれぞれ受賞し、世界のアニメーションに革命を起こします。また、アクティビストとしても、自然保護や動物愛護を訴える活動を積極的に続けています。
「木を植えた男」1987年
ポートレート2010年
「クラック!」1981年
「みにくいアヒルの子」より1956年
-
スタジオジブリの高畑勲監督と宮崎駿監督は、25年以上前にロサンゼルスで『クラック!』を見て、「物語とテーマ、そして表現が一致している」と、感動したんだって。通常のセルアニメーションでは、背景にキャラクターを馴染ませることは難しいけれど、一人で全カット手描きのアニメーションを作成したバックさんの手法では、それらが見事に調和していたんだ。その後、ときを経て、二人とバックさんの交流が始まるのだけれど、高畑監督は今も、バックさんを「我が師」と呼び、尊敬しているんだって。
バックさんから高畑勲監督への手紙。可愛いウサギのイラスト入り
「木を植えた男」1987年
「青の京都」2008年
「木を植えた男」原画1987年
羊飼いのエルゼアール・ブッフィエは、たった一人で荒野に木を植え続けます。その無償の行為は、不毛の地を、緑と生命の輝きに満ち溢れた場所へと変貌させます…。フランス人作家、ジャン・ジオノ原作の「木を植えた男」に感銘を受けたバックさんが、5年半の歳月をかけ、2万枚に及ぶ作画作業の大半を一人でこなして作り上げた代表作です。撮影には、コンピュータ制御の撮影台を用い、より高度で複雑なカメラワークを駆使しています。この作品はアカデミー賞短編アニメーション部門を受賞し、その独特な手法は、世界中のアニメーターに驚きを与えました。また、この映画に感動した人々による、植樹活動が世界中に広がりました。
-
バックさんとの出会いに感銘を受けた後、高畑勲監督は、長編アニメーション『ホーホケキョ となりの山田くん』で、まるで水彩画のようなタッチで背景にキャラクターを馴染ませてみたんだって。また宮崎駿監督は、『崖の上のポニョ』で、CGを一切使わず、絵本の挿絵のような背景を用いたんだ。そして、手描きのアニメーション、それも、可能な限りたくさん動かすアニメーションにこだわって制作したんだって。
バックさんのアトリエには、膨大な量のスケッチがある ポートレート2010年
-
自然に対する敬意を持ち、平和を愛するバックさんは、他にも環境や社会を取り巻く問題を提起する、さまざまな作品を生み出しています。田舎で暮らす子どもたちの前に現れた魔法使いが、自然のものを次々と工業製品に変える『イリュージョン?』。北米を流れる大河、セント・ローレンス河を舞台に、河に生きる生命の力強さと、生態系を破壊する人間の愚かさを描いた『大いなる河の流れ』。可愛らしいキャラクターが登場する作品や、ドキュメンタリータッチの緻密な描写など、その豊かな表現は、大人から子どもまで、多くの人々を魅了してやみません。
左上/「大いなる河の流れ」1993年 左下/「イリュージョン?」1975年 右/「クラック!」1981年
-
-
展覧会では、アカデミー賞受賞作品『クラック!』『木を植えた男』の原画や初期のスケッチ、美しい絵画とともに、エピソード豊富なバックさんの人生をたどっていきます。また会場では、アニメーションの動画9作品のダイジェスト映像もご覧いただけます。ほかにも、ワークショップや、オリジナルショップなど、見所満載です。
「木を植えた男」1987年
住所:札幌市南区芸術の森2-75
電話:011-591-0090
アクセス:地下鉄南北線「真駒内」駅の2番バスのりばから中央バスに乗り「芸術の森入口」で下車(所要約14分)。約15分間隔で運行
-
-
-
バックさんが訴え続けた、自然の尊さ。私たちも実際に自分の眼や耳、体で、自然の美しさや素晴らしさを体感し、その大切さを実感してみませんか。
自然を愛するバックさんは、旅の人でもありました。自然を感じる旅を通して、私たちの大切な地球環境について、考えてみませんか?
-
-