その土地に伝わるストーリーを掘り起こし、その世界観に浸る体験をコンセプトに掲げているホテルインディゴ。世界100カ国以上に展開するIHGホテルズ&リゾーツのホテルブランドの一つで、日本第1号となったのが「ホテルインディゴ箱根強羅」です。箱根エリアの中でも美術館など文化施設が集まり、文人に愛された強羅に居を構え、肩肘張らない安らぎと好奇心をくすぐる遊び心で訪れる人をもてなします。
美術館が集う強羅エリアにたたずむ
温泉街を流れる早川と大文字焼で知られる明星ヶ岳といった箱根ならではの自然が対峙する一角にある「ホテルインディゴ箱根強羅」。小田原駅からは無料シャトルバス(※予約不要)が運行し、都内からも2時間足らずとアクセス良好です。
落ち着いた色あいの外観は、強羅の閑静な景色とも調和しており、この近隣こそが欠かせない存在。その土地が持つ文化や人と強くつながり、ホテルを通してネイバーフッドを感じるのがホテルインディゴの醍醐味です。スタッフはネイバーフッドホストと呼ばれ、さながら語り部のように土地の魅力をゲストに伝えます。
古民家から譲り受けたという重厚感ある扉を抜けると、無骨な梁や囲炉裏が目を引くフロントがあります。
これは強羅公園にある茶室「白雲洞」から着想を得たもの。素朴な農家の古材を活かし、茶道用ではなく一般的な囲炉裏を用いて「田舎家の席」という意匠を築き上げた茶室と同様に、昔懐かしい日本の面影が感じられる空間です。
フロント奥の壁にはたくさんの白い三角形が縦横無尽に飾られ、夏の風物詩でもある早川のホタルを表現しています。
柱には伝統工芸の寄木細工や箱根登山鉄道など4種類の写真があしらわれ、壁には強羅の語源にもなったという大量の石がゴロゴロと。フロントだけでもこの土地にまつわるストーリーが散りばめられていて、箱根への愛着が湧いてきます。
チェックインまでの待ち時間、寄木細工の文様が刻まれた天井に誘われるまま明星ヶ岳や明神ヶ岳といった箱根の山々を望むラウンジへ。コーヒーや紅茶、スパークリングワインなどのウェルカムドリンクが用意されているほか、カフェとしても利用可能です。
ラウンジに隣接した中庭では紅葉が色づき始め、涼やかな風が頬をなでます。ここにある早川に面した足湯は隠れた人気スポット。お部屋に入る前から温泉の温もりを感じ、強張った身体がゆるりとほどけていくひとときです。
早川に面したリバーサイドルーム
お部屋は全100室あり、大まかにリバーサイドとヒルサイドの眺望で分かれています。広さ38平米の「デラックスツイン リバーサイド露天風呂付」は、デザイン性の高いブティックホテルならではの魅力が詰まった空間になっています。
まず目を引くのが壁紙。昭和初期の強羅駅が写されていますが、これは強羅にある「島写真館」から提供していただいた画像を使用したもの。
ノスタルジックなモノクロ写真には浮世絵の人物が自撮り棒で撮影したり、上空をドローンが飛んでいたりと歴史と現代が交錯する様子は遊び心があふれ、唯一無二のアート作品に。
昔も今も変わらず箱根を撮り続けてきた「島写真館」と、その土地のストーリーをひも解く「ホテルインディゴ箱根強羅」との組み合わせは運命さえも感じさせるコラボレーションです。
ミニバーの頭上に飾られた看板には、ひらがなで「ばぁ」の文字が。温泉マークを模した湯気がカップから立ち上り、そのやわらかな雰囲気にほっこりします。引き出しには、紅茶や緑茶のティーバッグ、ネスプレッソなどが用意されています。
リバーサイドのお部屋には天然温泉が注ぐ露天風呂があり、早川の川音がBGM。源泉の宮城野温泉は箱根十七湯の一つで、ナトリウムやカルシウムなどのミネラルが豊富。硫酸塩泉と塩化物泉を兼ねそなえた泉質は保湿効果があり、身体を芯から温めてくれます。
歯ブラシやシャワーキャップなど、ひと通りのアメニティは用意されているほか、日本らしさが感じられる和柄のヘアゴムや十字刺子(じゅうじさしこ)も。化粧水などのスキンケアセットはフロントスタッフに声を掛けるといただけます。
ボディソープ・シャンプー・コンディショナーにはオーガニックコスメで有名なオーストラリア発ブランド「Biology」が置かれ、国内未発売のものを試せます。湯上がりにうれしい箱根の丹沢山麓から流れる天然水のミネラルボトルもあります。
インディゴカラーの浴衣は肌ざわりがやわらかく、身体にしっとりと馴染むデザイン。レストランや館内施設も浴衣で利用できます。
緑の自然が待つヒルサイドルーム
落ち着いた色あいのリバーサイドに対し、「デラックスツイン ヒルサイド温泉風呂付」はビタミンカラーがアクセントになり、ポップな印象のお部屋です。
広さは37平米あり、こちらにも「島写真館」から提供いただいた画像を使用したヘッドボードが並びます。大正12年に創業した老舗旅館の早雲閣、丸みをおびたボンネットバスが写り、古き良き時代と呼ばれた往時にタイムスリップしたようです。
広々とした洗い場と浴槽を完備した内風呂がヒルサイドの特徴。やわらかな光をおびた障子が時に部屋を開放的に、時に部屋を機能的に仕切ってくれます。
素材の旨みを引き出す薪グリルのディナー
夕食はラウンジ横の「リバーサイド・キッチン&バー」へ。天井には組子細工や寄木細工が飾られ、壁面には歌川広重の傑作とたたえられる東海道五拾三次の「箱根湖水図」が鮮やかな色彩とともに登場し、ダイニングの空間をダイナミックに演出しています。
中央のオープンキッチンにはグリルスペースも併設し、シェフたちが神奈川近郊から届く新鮮な食材を手際よく調理。箱根の間伐材を薪として使用し、シンプルな調理方法から生み出されるボーダーレスな料理は世界中からゲストを迎える「ホテルインディゴ箱根強羅」にとって理想のスタイルなのかもしれません。
ディナーは3コースあり、アラカルトでオーダーすることも可能。コース料理は季節ごとにメニューが変わり、今回は、国産牛の薪グリルを味わえるシグネチャーコースを選択。
前菜のライスサラダには、山盛りのシャンピニオンの下にマグロのマリネが隠れていて、一緒にいただくことでお寿司のような味わいに。黒オリーブのパウダーや豆腐のディップで味が変化し、一皿で多彩な味を楽しめます。
ドリンクにはネイバーフッドビールと称した御殿場のビールやインディゴオリジナルの純米吟醸、さらにワインとソフトドリンクも豊富です。
オリジナルカクテルの「インディゴプラス」はゲストへの小さな感動を願い、インディゴカラーのジンに柑橘を加えたもの。爽やかさの次にジン特有の風味が感じられ、桜の葉っぱがあと味のアクセントに。こちらはノンアルコールでもいただけます。
2品目の魚料理には、相模湾で取れた尾長鯛を薪で丁寧にグリル。皮がパリッと香ばしく焼き上がった状態でありながら身は驚くほどふっくらで上品な味わいです。塩加減も絶妙で、鮮やかなビーツのソースをからめるとより味が華やぎます。
同じく薪グリルで仕上げた国産牛のサーロインが本日のメインディッシュ。薪火でじっくりと調理されたお肉は旨みがぎゅっと閉じ込められ、噛むごとにジューシーな脂が口の中に広がっていきます。
旬野菜のローストもみずみずしく、お肉の付け合わせに最適。赤ワインソースとホワイトソースのモルネーソースの2種類が用意され、一緒にいただくと料理のコクがさらに際立ちます。
デザートには、秋の味覚が詰まったマロンアイスに抹茶と栗のモンブランが登場。風味豊かなマロンアイスに対してモンブランは抹茶の渋みがほど良く、食べ進めると現れる抹茶のガトーショコラの控えめな甘さがコースを上品に締めくくってくれます。
一日の最後は静寂なバーで
食材それぞれの味をしっかりと堪能したディナーの後には、同じフロアにあるバーカウンターへ。足元では伝統的な麻の葉紋様が幻想的に浮かび上がり、夜をいっそう優美な世界へと誘います。
こちらではオリジナルカクテルに加え、インディゴのクラフトビールやクラフトジンなどオリジナルのリキュールを味わえるのが魅力。20種類近いカクテルを目の前で作ってくれるほか、世界各国のウィスキーも取りそろえています。
定番カクテルのエスプレッソマティーニですが、こちらでは足柄ほうじ茶を使ったものも。コーヒーの苦みのあとにほうじ茶の芳ばしさが感じられ、時間をゆっくりと過ごしたい夜にぴったり。モクテルもあり、ゆずとライムの爽やかなゆずモヒートは食後だけでなく湯上がり後にも飲みたくなる味です。
「大きなホテルとは違って、スタッフとお客さまとの距離が近いのもここの魅力です。レストランとバーにお越しいただいたお客さまには食材の個性、飲み物の個性に加えてスタッフの個性もぜひ楽しんでいただきたいですね」と、マネージャーの行田さん。
ほろ酔い気分でお部屋に戻り、一日の終わりは温泉で。自分の好きなタイミングで入浴できるのが温泉付き客室のぜいたくさです。チェックイン時にもらった箱根の間伐材で作った檜ブロックを投入すれば香りもふくよかに。五感すべてが癒やされ、至福の気持ちで眠りにつきます。
「サーマルスプリング」で一日をアクティブにスタート
翌朝、新感覚の癒やしスポットがあると聞いて施設内にある「サーマルスプリング」へ。水深1.2メートルの深いエリアやジャグジーなど数種類のお風呂は客室と同じ源泉が注がれ、水着を着用することで家族や友人と一緒にくつろぎの時間を共有できます。
ヘッドボード同様に、既存のものを応用して前代未聞の空間を生み出す特技はこちらにも。ジャグジーの大画面モニターに映し出されるのは、桜、花火、大文字焼き、紅葉、冬景色といった箱根の豊かな春夏秋冬。温泉に浸かりながら箱根の一年を巡る旅がはじまります。
「サーマルスプリング」には、ゆったりと座れるソファ席も完備し、ヒマラヤ岩塩が入ったサウナも。岩塩を温めることで遠赤外線が放出し、より汗をかきやすい身体に。デトックス効果で一日をすっきりと始められます。
混雑状況に応じて、こちらでは日帰り温泉も実施し、水着もレンタルできます。更衣室は明治時代の銭湯をイメージし、ポンプ型の蛇口は特注というこだわり。温泉にまつわるグラフィティが天井を彩り、アートとレトロが融合した空間になっています。
「サーマルスプリング」の向かいには「フィットネスセンター」もあり、24時間いつでもアクティブなゲストを歓迎。幅広いマシンを取りそろえ、迫力満点な映像に気持ちも盛り上がります。
朝食は薪グリル料理に和食、洋食が盛りだくさん
まぶしい陽光に照らされたレストランは、昨夜の幻想的なディナーとは一変して、朝の澄み渡る空気に満たされています。
カウンターにはみずみずしいサラダやフルーツが並び、洋食メニューに加えて、シラスやかまぼこ、菜の花のからし和えや煮物といった和食も充実。金目鯛やアジの干物など、地元の特産品も多数です。
ベーコンやソーセージ、さらに旬野菜は薪グリルで提供。このひと手間をかけたことで朝食の定番メニューが味わい深いごちそうに昇華しています。
エッグステーションは自分で具材をよそって、目の前でオムレツを焼いてもらうスタイル。細かな分量やバランスにもこだわれて、自分好みにアレンジしたくなるはず。
レストランだけでなく、ラウンジや中庭でも朝食をいただけるので、朝食は終始ゆったりとした雰囲気。せわしなかった日々が嘘のようで、ゆっくりと休めたことで活力が湧いてくるのが感じられます。
オリジナルグッズをチェック
チェックアウトは11時。出発前にぜひ訪れたいのがフロント前のショップです。
温泉水と小田原産片浦レモンエキスがたっぷりとしみ込んだフェイスパックは、こちらのオリジナル。箱根の檜や杉で作ったお箸も森林再生の活動につながるサステナブルなグッズです。
デンマーク出身のニコライ・バーグマンとコラボレーションしたプリザーブドフラワーも販売。美しい花々がここで過ごした大切な時間の象徴になり、持ち帰れば自宅にも安らぎをもたらしてくれそう。すぐ近くには「ニコライ・バーグマン箱根ガーデンズ」もあり、道すがら立ち寄ってみるのも旅の醍醐味です。
復路も小田原駅直行のシャトルバス(※要予約)があり、強羅を散策してから夕方の便で帰るという過ごし方も。「王道の美術館を巡りつつも遊歩道で宮ノ下まで足を伸ばしたり、箱根の山をハイキングしたり。ここを拠点に新たな箱根を発見していただきたいですね」と、マーケティングマネージャーの高橋さん。
伝統工芸や四季折々の景色など、館内の至るところに箱根らしさが散りばめられている「ホテルインディゴ箱根強羅」。箱根の歴史や文化をひも解いていくような滞在は、ホテルというより箱根そのものに宿泊しているようです。まだまだ知らなかった箱根がここに。ぜひ訪れてみて、この箱根という土地を満喫してみてはいかがでしょうか。
ホテルインディゴ箱根強羅
- 住所
- 神奈川県足柄下郡箱根町木賀新田924-1
- アクセス
- 東京駅から小田原駅まで新幹線で約35分。小田原駅西口⇔ホテル間でシャトルバス運行。
- チェックイン
- 15:00
- チェックアウト
- 11:00
- 総部屋数
- 100室
- 駐車場
- あり・宿泊者無料
撮影・取材・文/浅井みらの