飛騨古川の地で有形文化財を擁する料亭旅館「八ツ三館」会席料理とともに贅沢な時間を楽しむ宿

創業160余年、飛騨の匠が建てた登録有形文化財の老舗料理旅館「八ツ三館」。明治建築の招月楼はかつて山本茂実の小説『あゝ野麦峠』の舞台にもなった場所で、当時のままその姿を残す館内は、今でも古の人が行き交う足音が聞こえるかのよう。

 

その土地の文化と伝統に根付き、味わいのある「日本 味の宿」にも加盟する料亭旅館で、夕食の会席料理は絶品です。飛騨の奥座敷、飛騨古川で静かにお腹も心も満たす滞在ができる「八ツ三館」。今回は1泊2日の宿泊体験記をご紹介します。

 

飛騨古川の風情の中に佇む創業160余年の老舗「八ツ三館」

八ツ三館

「高山の奥座敷」と称される飛騨古川。鯉の泳ぐ瀬戸川と白壁土蔵の町家が並ぶ風情ある町に佇むのが老舗料亭旅館「八ツ三館」です。安政年間創業で160余年に渡り愛され続けており、飛騨の匠の技術を凝らした明治建築の建物は、登録有形文化財にもなっています。

 

八ツ三館
八ツ三館
八ツ三館

宿まではJR飛騨古川駅から徒歩約6分。白壁土蔵やお寺の石垣が続く町並みを眺めながら、あっという間にたどり着きます。宿は飛騨古川の冬の風物詩「三寺まいり」の一つの拠点である本光寺と清流・荒城川の目の前という絶好のロケーションに建っています。

 

登録有形文化財も有する味自慢の宿

八ツ三館

荒城川沿いにある玄関は風情たっぷり。「八ツ三館」は、商家造「招月楼」(明治 38 年造)の招月楼と、数寄屋造りの光月楼(昭和初期造)、端正な和室のお部屋がある観月楼(平成9年造)の3つの棟が連なるように建っており、正面玄関はその中の一つ招月楼にあり、趣のある数寄屋門となっています。

 

八ツ三館
八ツ三館

看板には「御料理」と書かれており、料亭としても地域の人に親しまれている側面を持ちます。秋田直樹総料理長をはじめとする県内のコンクールなどでも受賞経験を持つ料理人たちがそろい、日本の宿ならではの味わいを大切にする宿同士が連携した「日本 味の宿」のグループにも加盟されています。その土地に根付いた素材を使った料理を提供しているのが特徴です。

 

また、文化庁により招月楼の建物が「登録有形文化財」にも認定されており、歴史と趣のある空間で過ごすことができるのもポイントです。

 

八ツ三館

玄関の中に入ると「八ツ三館」の大きな額が目に入り、周りには季節の飾り付けが丁寧に施されてお出迎えいただけます。

 

八ツ三館

チェックインはタイムスリップしたようなレトロなお部屋で。お抹茶とお茶菓子のサービスを受け、ほっと一息ついてからお部屋に案内していただけます。

 

飛騨古川の町並みを一望できる「ゆとろぎの間」には展望露天風呂も

八ツ三館

客室は招月楼、観月楼、光月楼の3つの建物にさまざまなタイプが用意されています。今回宿泊したのは、2022年11月観月楼にオープンしたばかりの「ゆとろぎの間」。展望露天風呂付きの豪華なお部屋です。

 

八ツ三館

10畳の和室の他に、独立した寝室、テラス席のような書斎リビングなども備わっています。角部屋のため2面が大きな窓になっており、北側は本光寺と荒城川が、西側には沈む夕陽というとても贅沢な眺めを楽しむことができます。

 

八ツ三館

和室空間とベッドルームが分かれているのもうれしいポイント。間仕切りは飛騨の匠の技術を生かした欄間や引き戸などが採用されています。
「飛騨の匠」と言われる現代に受け継がれる地元の大工の技術は、釘を1本も使用せず組木の技術を活かして作られているのも特徴。部屋の随所にあふれる建築美を見るのもおすすめです。

 

八ツ三館

ベッドルームは明かりを抑えた落ち着いた造りで、シモンズベッドを採用。障子を開けると、丸く切り抜かれた木材が円形窓のようになります。

 

八ツ三館

和室とベッドルームの間仕切りに仕掛けられた扉を回転させるとテレビが回り、好きな方の部屋でテレビを見られるようになっているのにも、飛騨の匠の遊び心が感じられました。

 

八ツ三館

部屋には檜の露天風呂もあります。広さのある露天風呂なのでファミリーで一緒に入ることができ、窓をあければ目の前に本光寺を見ることもできます。

 

八ツ三館
八ツ三館
八ツ三館

洗面スペースも広々と確保されているので、お部屋にいながらもゆったりとしたバスタイムを堪能できます。アメニティ類や館内着の浴衣も用意されているので、安心です。

 

2022年11月にオープンした部屋は他に「ゆとろぎ」以外に「くおん」「たまゆら」と全3室あり、全てに室内露天風呂がついています。プライベート空間を確保されたい方にはぴったりの客室です。

 

八ツ三館

部屋に置かれた椅子類は、9代目若女将である娘さんが選ばれたこだわり物とのことで、椅子のコンテストで優勝したものなのだそう。座ってみるとその心地の良さに感動すること間違いなし。ぜひ椅子に座って部屋での時間を楽しんでみてください。

 

八ツ三館

その他にもさまざまなタイプの部屋が用意された「八ツ三館」。例えば明治38年に建てられた飛騨の商家造りであり国登録有形文化財に登録された招月楼の中にあるお部屋もそれぞれ異なった造りとなっています。その中の一つが上記写真の「布袋の間」です。

 

八ツ三館

小上がりの広縁に腰掛けて荒城川を眺めるお部屋で、夜は障子越しに、夜灯が照らす木々の影が映ります。明治の明かりが少なかった当時の様子がよみがえるような味わいがあります。

 

八ツ三館

部屋に備えられたお茶を淹れ、飛騨古川で古くから親しまれる「井之廣製菓舗」の味噌煎餅をいただくと、なんとも言えない古の空気を感じることができます。

 

八ツ三館
八ツ三館
八ツ三館

箱階段や飛騨春慶の和ダンスなど、飛騨の時代とともに使われてきた当時の家具が置かれているのも特徴。古き良き伝統を守るため、色を塗り直しながら修繕して使っていらっしゃるそう。木箱に入った裁縫道具も懐かしさを感じさせてくれる品でした。

 

どの部屋にも茶香炉が置かれており、爽やかな香りが部屋に漂い、癒やしの時間が演出されていました。

 

「日本伝統を守る拠点としての役割も果たしたい」

八ツ三館

江戸時代の末期、越中八尾から飛騨古川に来た三五郎が宿を始め、現在まで続く「八ツ三館」。屋号は初代の出身地である八尾の「八」と名前の「三」をとって名付けられました。

 

そんな宿を守り続ける8代目の池田理佳子さんにお話を伺うと、「普通の家にはなくなりつつある畳や襖や障子がある日本旅館は、日本文化の縮図ではないかと考えています。それは使う人があって修繕や新調をお願いすることによって職人さんの仕事ができ、初めて守っていくことができるものなんです。例えば着物であっても仕立てる方や染める方がいて残っていくもの。だからこそ私どもの宿では簡易な作務衣などではなく、着物を着てお客様をお迎えしていきたいと思っていますし、古い家具も修理しながら使っていきたいと思っているんです」と、日本文化を守る意義について教えてくださいました。

 

八ツ三館

当時の面影をそのまま残す招月楼の館内。製糸業が盛んだった5代目の頃の建物です。多くの女子がこの飛騨の地から野麦峠を越え、信州に出稼ぎに出向いていたそうで、「八ツ三館」は飛騨最北の募集拠点で検番宿としてにぎわっていたとのこと。

 

八ツ三館

「階段を登ると聞こえる木の軋む音、少し低めに構えた鴨居、連子窓が並ぶ細い畳の廊下など、お客様にはご不便と感じられることがあるかもしれませんが、風情と捉えていただければとてもうれしいです」と池田さん。

「食事の時に使われる漆塗りの箸でも、よっぽど欠けたりしなければ塗り直して使い続けています。日本の良さはそうやって物を大切に使い続けていくところにもあると思うので、当館に残る品もできるだけ長く残していきたいなと考えています」とお話くださりました。

 

八ツ三館
八ツ三館

「日本 味の宿」にも加盟する料亭旅館であることについては「当旅館は地元の農家さんとのつながりも深く、地元のおいしい素材をお届けすることをモットーとしています。それと同時に立地的に近い富山から仕入れた海のものも出し変化をつけています。会席のメニューは毎月刷新しており、料理に合わせて器も変えているのもこだわりです。食事目的で毎月いらっしゃるお客様も多く、それが調理人の励みにもなっているのでとてもありがたいです」と話します。それを聞き、夜の会席の時間がますます楽しみになりました。

 

露天風呂やくつろぎスペースで体の疲れを癒やす

八ツ三館

夕食までの時間、お風呂に入ってくつろぎます。館内には屋根付き露天風呂のある大浴場「せせらぎの湯」があるので、季節で景色が変わる庭園を眺めながら旅で疲れた体を癒やしましょう。どぶろく風呂や、季節によっては女性限定のバラ風呂を楽しむこともできます。

 

八ツ三館

家族やカップルで水入らずの時間を楽しみたい場合、貸切風呂「おしどりの湯」もおすすめ。地下水を沸かしたお湯で広さも確保されているのでゆったりと過ごすことができます。

 

八ツ三館

お風呂を出たら宿の1階にあるお休み処でのマッサージチェアで休憩。リラックスできるBGMが流れる空間で目の前の庭園を眺めながらやすらぎの時間を堪能します。

 

八ツ三館

時間がある方は、2022年11月に宿に併設される形でオープンしたばかりのチーズ菓子店「二十四」へも行ってみてください。

 

八ツ三館

宿の料理人が手がける飛騨の食材を使って作るチーズテリーヌやチーズバターサンドのほか、コーヒーなどのドリンクも楽しむことができるお店です。

 

八ツ三館

店内のこだわり抜いたインテリアも見もので、飛騨市河合町の山中和紙を使った行灯証明や壁紙、創業100年を超える職人家具の飛騨産業が作る地元の木材を使った椅子やテーブルなどが置かれ、飛騨の現代的な空間を感じることもできます。

 

個室空間で楽しむ飛騨の季節ごとの伝統が詰め込まれた会席料理

八ツ三館

「八ツ三館」は、板長おまかせの会席を堪能できるお宿でもあります。月替わりの料理を楽しみに毎月訪れるファンもいるほど、味には定評があります。夕食は部屋ごとに用意された個室へ。薄暗くなり始めた部屋から見る庭の景色が風情たっぷり。

 

八ツ三館

静かな雰囲気を感じられるよう、部屋に入るとスタッフの方がろうそくに火を灯してくださいます。こちらのろうそくは飛騨古川の地で240年以上続く手作り和ろうそくの老舗「三嶋和ろうそく」のもの。切り口が年輪状なので炎が横に流れにくく長持ちするという特徴があるそうです。

 

八ツ三館
八ツ三館

飛騨のアスパラ、えごま味噌、桜ます寿司など飛騨の山の味を詰め込んだ八寸からスタート。料理とともに楽しみたいのは、飛騨の地酒。飛騨古川には「渡邉酒造」と「蒲酒造」の2つの酒蔵があり、それらのおすすめを飲み比べできる「利き酒セット」がおすすめです。お気に入りの銘柄が見つかること間違いなしです。

 

八ツ三館

驚いたのはお造りです。飛騨のとらふぐや飛騨産白きくらげなどが盛られています。とらふぐは飛騨の山の中で山麓からの湧水で養殖されており、一年を通して味わうことができるとのこと。コリコリ食感と身にほんのり甘みが乗り絶品でした。

 

八ツ三館

飛騨地方では「河ふぐ」とよばれるナマズは昆布締めで。全く臭みのない味にびっくり。これらの食材は料理長が自ら地元生産者のところに出向き見つけてくるそうで、料理からも飛騨の新たな一面を発見することができました。

 

八ツ三館

焼き物は岩魚の塩焼きです。串刺しの岩魚がカゴに花とともに入れられた演出も粋です。

 

八ツ三館

飛騨に来たからには食べたい飛騨牛もミニステーキで。添えられた発芽にんにくとの相性が抜群で、水耕栽培で育てられ栄養価も高いという発芽にんにくにも興味が湧いてきました。

 

八ツ三館

水無月南瓜がメインのデザートまで堪能して夕食は終了。お腹も心も満たされて、幸せいっぱいになりました。

 

飛騨の田舎の味が詰め込まれた朝食

八ツ三館

翌朝、朝食も同様に個室でいただきます。朝の爽やかな日差しが差し込む部屋は夕食の景色とはまた違った雰囲気があります。

 

八ツ三館
八ツ三館

朝食は小鉢にさまざまな惣菜が盛られた和食スタイル。飛騨地方の伝統料理、自家製の麹味噌を朴葉の上に乗せて焼いた「朴葉みそ」もラインナップ。味噌の芳醇な香りが食欲をそそります。

 

八ツ三館

朝食の時間に合わせた窯炊きのお米も目の前で盛っていただくことができ、ご飯に合わせていろいろなおかずを味わうことができます。朴葉みそはもちろんのこと、こも豆腐やぎせい焼き、ころいもなど飛騨地方に根付く田舎の味はごはんとの相性抜群です。

 

チェックアウト後に飛騨古川の町並み散策へ

八ツ三館

1泊2日の宿を堪能して、一旦チェックアウト。荷物をフロントに預け、電車に乗るまでの時間、周辺散策を楽しむことにします。高山の奥座敷と言われ飛騨に残るもう一つの古い町並みが残る飛騨古川。こぢんまりと趣があり、散策にぴったりです。

 

八ツ三館

まずは1,000匹あまりの鯉が泳ぐ瀬戸川へ。8代目女将池田さんより「以前の瀬戸川は生活排水が流れる汚れた川だったのですが、きれいな川にするため町の人が考えたのが「鯉を離すこと」だったんです。鯉が生きていけるよう川をきれいにする意識が芽生え、今でも川の掃除をこまめに行う風習が続いているんですよ」とお伺いしていただけに、鯉が泳ぐ様子がより貴重なものに感じられました。鯉の餌やりをすると近くに勢いよく寄ってくるのもかわいらしいです。

 

八ツ三館

続いては、昨夜の夕食でも提供されたお酒を作る「渡邉酒造」さんへ。

 

八ツ三館
八ツ三館

全国的にも広く知られる純米吟醸「蓬莱(ほうらい)」の試飲もさせていただくことができます。夕食で飲んだお気に入りの銘柄の購入もすることができて大満足。

 

八ツ三館
八ツ三館
八ツ三館

「飛騨古川まつり会館」の横にある朝市をのぞき、同敷地内にある「岡田屋」で醤油味の香ばしい香りの「みだらしだんご」、注文が入ってから焼き上げる飛騨牛串を食べて飛騨のファーストフードも楽しみます。

 

八ツ三館
八ツ三館

最後に、宿で出された井之廣の味噌煎餅をお土産に購入。味噌煎餅は、熟成3年の自家製味噌を使い、飛騨の「焼き味噌」に代表される食文化が息づいた味です。大人から子どもまで食べやすく、お土産にもおすすめ。

 

喧騒を離れ、心安らぐ滞在を

八ツ三館

飛騨古川を堪能できた「八ツ三館」に宿泊した1泊2日の旅。飛騨古川は旅行客でにぎわう高山とは一味違い、里山の風景が残る落ち着いた町。喧騒を離れ、日本人の心に刻み込まれた遠い日の面影を探しに行くのにぴったりの場所です。

宿はそんな滞在をするための拠点となっており、泊まることで新たな飛騨地方の魅力が発見できること請け合いです。ぜひ心豊かに宿泊する旅を楽しんでみてください。

 

料亭旅館 八ツ三館

住所
岐阜県飛騨市古川町向町1-8-27
アクセス
飛騨古川駅より徒歩約6分
客室数
20室
駐車場
20台
チェックイン
15:00
チェックアウト
10:00

 

取材・撮影・文/各務ゆか

 

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※この記事は楽天トラベルガイドによって取材・作成されたものです。

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