霧積温泉 金湯館 |
確か以前訪ねたときは、未舗装でガードレールのない悪路ながら林道の終点まで行けたはずだが……。現在は、通行止めとなっていた。霧積温泉のもう一つの宿「きりづみ館」奥の駐車場に車を停めて、山道を歩き出した。
誰が名付けたか、この道は”ホイホイ坂“と呼ばれている。昔、かごを担いで「ホイホイ」と言いながら登ったかららしい。前日の夕立のせいか、ジグザグ道は所々土が流出して、歩きづらい。下界とは10度以上の気温の差があるものの、それでも汗だくとなって登り切った。歩くこと約20分、眼下に水車が回る秘湯の宿を見下ろす高台へ出た。
「こんにちは。いっらっしゃい」と4代目若主人の佐藤淳さんが、犬を連れて坂道を登って来た。とても毛並みのいい、血統書付きの犬に見えたが「数年前、宿に迷い込んで来た」のだという。聞けば、軽井沢の別荘に置き去りにされた犬たちが、時々、山を越え、やせ細って、ここへたどり着くとのこと。まさにここは伝説どおりの”犬の湯“である。
伊藤博文、勝海舟、与謝野晶子、幸田露伴、西条八十、森村誠一など、昔から多くの政治家や文人が訪れている宿は、明治17年の創業。母屋には、当時建てられたケヤキ造りの部屋が現存している。ここで明治憲法が草案されたといわれる由緒ある部屋は、今でも指定して宿泊する客が多いという。
「やけどした子どもの傷が10日で、きれいに治ったとことがありました。かの勝海舟も皮膚病の治療に来ていたといいます。昔から、こんな山奥までたくさんの人がやって来られたのは、ここの湯が良いからにほかなりません」と、3代目主人の佐藤敏行さんは湯に絶対の自信を持っている。
その湯には、不思議な浴感がある。体をしずめた途端、プチプチとくすぐったいほどの泡の粒が背中をつたい出す。やがて全身の体毛という体毛は、白い泡に包まれてしまった。昔から泡の出る湯は、骨の髄まで温まるといわれ珍重されてきた温泉だ。
源泉の温度は39度とぬるめながら、実によく温まる湯である。
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(C)2010 Jun Kogure / Hajime Kuwabara |
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源泉名 |
霧積温泉 入之湯 |
湧出量 |
150リットル/分(掘削自噴) |
泉温 |
54.8度 |
泉質 |
カルシウム―硫酸塩温泉 |
効能 |
切り傷、やけど、神経痛、筋肉痛、関節痛、五十肩ほか |
温泉の 利用形態 |
加水なし、加温なし、完全放流式 |
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